谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
動物福祉
1.獣医師の視点から考える動物福祉
大沼 健太
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2022 年 2022 巻 24 号 p. 56-61

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抄録

 動物福祉とは、何となくのイメージはあるが、それを具体的に説明するのが難しい言葉の一つであると個人的には思っている。人間が動物を利用するということを認めた上で、動物に対して与える痛みやストレスといった苦痛を最小限に抑えることにより、動物の心理学的幸福を実現する考えと私個人は解釈しているが、その考えの基本となるものには以下の「5つの自由」がある。

 1.飢えおよび渇きからの自由

 2.不快からの自由

 3.苦痛、損傷、疾病からの自由

 4.正常な行動発現の自由

 5.恐怖および苦悩からの自由

 「5つの自由」の原点は、1965年に英国農業省が設置した「集約的畜産システムの下にある農用動物の福祉に関する調査のための専門家委員会」(通称ブランベル委員会)の報告書によって作られ、1979年には農用動物福祉審議会(FAWC)が動物福祉の理想的な状態を定義する枠組みとして、「5つの自由」をまとめた 1)。動物実験はこれら5つの自由のうち1つ、もしくは複数を制限することになってしまう場合が多いが、可能な限りこれらを制限することのないよう、また、制限するとしてもその時間を可能な限り短くすることを考慮すべきである。なお、最近ではMellorらが5つの領域モデル(five domains model)を提案した 2)。5つの領域モデルは5つの自由を発展させたもので、栄養・環境・健康・行動・精神の5つの領域が複雑に相互作用することを通じて、動物にとって生きる価値のある生の実現を目指すものである。主に展示動物の分野で用いられる場合が多いが、最近では実験動物をはじめ、様々な分野の動物に対しても用いられるようになってきた。

 また、動物実験を実施する際の大原則として今では当たり前のように受け入れられるようになってきたが、3Rs(Replacement、Reduction、Refinement)があることも忘れてはならない。Refinementに関しては適切な麻酔薬・鎮痛薬の使用や、人道的エンドポイントの理解の広がりもあって具体的な項目として各所で実践されるようになってきたが、一方でReplacementのための代替法の理解や、Reductionのためのサンプル数算出根拠など、3Rsのための前提条件が理解されているかはいささか疑問の余地があるのではないだろうか。各施設の教育・審査担当者はこれまで以上に視野を広げて情報を取得するよう努力すべきであろう。

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