2022 年 2022 巻 24 号 p. 8-13
脳や末梢神経に働いて薬効を発揮することを期待している医薬品候補は、主作用を担う標的だけでなく、それ以外の作用点を介して望まない有害な作用を発現する可能性がある。しかし、そのような神経系に対する作用を前臨床段階の動物実験で確実に捉え、ヒトで起こる可能性を的確に予測することは困難であり、臨床試験において初めて神経系に対する毒性が認められ開発中止となるものも多い。こうしたリスクを軽減するために、医薬品候補の投与により引き起こされた変化を反映し、生きた個体から繰り返し採取できるバイオマーカーの探索が精力的に進められている。バイオマーカーには臨床検査マーカー、電気生理学的マーカー、イメージングマーカーなどがあり、技術の進歩に伴って新たなバイオマーカーが次々と開発されている。これらのバイオマーカーを活用する際には、特異性、感度、簡便性、侵襲性などの課題があるため、それぞれの特徴を理解しながら目的に応じて選択しなければならない。
ここでは、神経毒性の液性バイオマーカーとしてよく知られているニューロフィラメント軽鎖(neurofilament light chain: NfL)を取り上げ、抗がん剤による神経障害の予測や、医薬品候補の神経障害抑制作用の評価への応用例などを示す。また、医薬品候補による神経毒性の機序解明には、単一のバイオマーカーだけでなく、複数のバイオマーカーの組み合わせが有用であることについても示す。