2022 年 2022 巻 24 号 p. 14-19
血液と脳組織との間には脳毛細血管内皮細胞(brain microvascular endothelial cell: BMEC)を実体とする血液脳関門(blood brain barrier: BBB)が存在し、血液と脳組織の間で行われる物質の交換を制御している。他の末梢臓器における毛細血管内皮細胞と異なり、BBBでは内皮細胞同士が強固なタイトジャンクションを形成し、無窓性であること、ピノサイトーシス(飲作用)が非常に少ないことによって多くの物質の透過が妨げられている。そのためBBBは血液からの異物の侵入を阻止する静的な障壁と考えられていたが、種々のトランスポーターや代謝酵素の発現が確認され、BBBは脳に必要な栄養物質の取り込み、脳内からの代謝物の排出を能動的に行っている極めてダイナミックな存在であることが明らかとなってきている(図1)。このような特徴からBBBは中枢神経系の恒常性を保つために重要な存在である一方、薬物の中枢移行を制限する障壁となっている 1)。
1990年代頃から探索研究段階での薬物動態評価の重要性が認識されるようになり、多くの製薬企業で探索動態専門の部署の立ち上げや各種in vitro ADMEスクリーニング系の整備が行われてきた 2)。また、肝ミクロソームなどに代表されるヒト由来試料の普及やin vitro-in vivo correlation (IVIVC)、各種モデリング技術の発展によりヒトにおける薬物動態の予測精度は向上し、薬物動態が直接の原因となって臨床試験が失敗する割合は減少した 3)。
一方、BBBの機能が明らかになるにつれ、種々の中枢移行性に関する評価系が考案されてきているが、ヒトにおける薬物の中枢移行性データが入手困難であるため、評価系の構築や検証が困難である。そのためヒトにおける薬物の中枢移行性を予測することは非常に難度が高く、中枢疾患治療薬の臨床開発は成功率が6%程度と医薬品全体の成功率よりも低い要因の一つと考えられている 4)。
本稿では創薬の現場で実施されている評価系の概要、有用性と限界、今後に向けた展望について概説したい。