待遇コミュニケーション研究
Online ISSN : 2434-4680
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2021年待遇コミュニケーション学会春季大会・秋季大会研究発表要旨
敬語表現化の工夫に関する考察
依頼メールを対象として
萩原 喜美子
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2022 年 19 巻 p. 129

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抄録

本研究は、日本語話者の大学院生(日本語母語話者・非母語話者各2名)が依頼のメール文を作成する際、違いのある立場の相手(友人と指導担当教授)に対して行った敬語表現化における工夫と意識を依頼メール文の調査とFUI調査によって明らかにしたものである。

調査の結果、19種類の敬語表現化の工夫と意識が明らかになり、表現主体はそれらを違いのある立場の相手に対して、次のように使用していたことが分かった。①友人に対しては、「詫び」と「譲歩」に加えて「記号の使用」「述語の省略」「経緯(人選)の詳述」「返答方法の提示」「一時的な依頼取り下げ」という工夫を使用していた。「記号の使用」「述語の省略」では、依頼という場面から醸し出される「重さ」「硬さ」「深刻さ」を「明るさ」「緩さ」「ユーモア」に変えるという「肯定的印象への転換」、「経緯(人選)の詳述」「返答方法の提示」「一時的な依頼取り下げ」では「心情や状況への配慮」を意識していた。②指導担当教授に対しては「詫び」と「譲歩」という工夫を押さえたうえで、「決定権委任の明示」「経緯(状況)の詳述」という工夫を使用していた。表現主体は、相手が目上の立場であるからこそ必要だと考える「敬意の表明」「意思の尊重」「状況への理解促進」を意識していた。③表現主体が立場の違いに関わらず、最も使用していた工夫は「詫び」と「譲歩」という工夫であった。「行動は相手でありながら利益・恩恵は自分」という依頼の持つ「心苦しさ」「困難さ」を乗り越えるために、「申し訳なさの表明」「相手の負担軽減」を意識していた。④「詫び」と「譲歩」に次いで使用していた工夫は、「依頼内容の緩やかなきりだしと詳述」「文体の使い分け」「プライバシーへの配慮」「見通しの提示」という工夫であった。表現主体は「印象の調節」「心情への理解と共感」を意識し、これらの工夫を使用していた。

この結果から、表現主体の持つ場面に関する認識が意識に反映し、意識に応じた工夫は内容と形式に作用して、依頼メール文の表現となって現れているという「場面-意識-内容-形式」の連動が明らかになった。つまり、依頼のメール文の個々の表現は決して単独で存在しているものではなく、表現の適切さは、この連動の中で初めて判断が可能になるということだといえる。したがって、日本語教育においては、「場面-意識-内容-形式」の連動を提示し、このつながりの中で適切な表現を考えさせることが重要になる。

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