待遇コミュニケーション研究
Online ISSN : 2434-4680
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19 巻
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研究論文
  • 李 址遠
    2022 年 19 巻 p. 1-17
    発行日: 2022/04/01
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル フリー

    従来の研究では、言語表現が担う多様な社会的意味に言及する様々な術語が、それ自体の意味に関する十分な吟味なしに用いられてきた。本稿では、先行研究において頻繁に用いられてきた重要概念の一つである「改まり」を取り上げ、その意味に関する明示的な記述を提示することで、同術語を用いる研究上の記述の厳密化を図るとともに、言語表現の社会的意味の記述に用いられる諸術語を的確に理解するための理論的方向性を示すことを試みた。「改まり」を、記号がコンテクストを指し示すことによって生じる指標的意味 (indexical meaning) として捉えるという記号論的視点に基づき、コーパスを使用した連語関係の調査および、「改まり」という語を刺激テーマとした連想実験から得られたデータを分析・考察し、「改まり」とは「出来事がそのコンテクストを、制度的かつ明確な目的に基づいて成立する場面として指標するときに生じる意味である」という記述を導いた。この記述が、極めて多岐にわたる「改まり」という語の外延と、「改まり」に関連する様々な物事を一貫して説明できるものであることを示し、それが同術語を用いた研究上の記述とその理解の厳密化に役立ち得ることを論じた。また、言語の社会的意味の記述に用いられる諸術語を理解する上で、指標性の概念および記号論の枠組みが持つ有効性を主張した。

  • 提案の場面に焦点を当てて
    新家 理沙
    2022 年 19 巻 p. 18-34
    発行日: 2022/04/01
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル フリー

    提案とは、相手に自分の考えを明示する行為である。これは、自分の考えを押し付けて相手の領域に踏み込むことにも繋がり、ひいては相手の気分を害する危険性を伴う行為にもなると考えられる。重光(2017)は、日本人・アメリカ人の会話スタイルはそれぞれの文化・社会的背景の影響を大きく受けているとしており、これらの文化・社会的背景は提案の場面においても話者の表現選択に多くの影響を与えていると考えられる。しかし、年齢や立場の違う2者が協同で1つの目的を達成するために行う相互行為における提案の際にも同じ傾向がみられるのだろうか。これまで提案の場面における会話の連鎖や言語表現の使用に焦点を当てている研究はあるものの、年齢や立場の違いがある2者間で用いられる提案の際の言語表現に焦点を当て、さらに2言語の異言語・異文化間比較を行っている研究はない。

    本稿では、年齢や立場の違うアメリカ人(アメリカ英語母語話者)の教師・学生が、協同で1つの目的を達成するために行う相互行為(課題達成談話)における提案の場面での言語表現に焦点を当て、藤井(2016)で示されている分類方法(陳述文、緩和表現を伴った陳述文、陳述形式による疑問文、(一般形式の)疑問文)を用いて分析を行った。そして分析結果とそこから見られるアメリカ英語母語話者の教師・学生の場の捉え方を、すべて同条件の日本人(日本語母語話者)の分析・考察を行った新家(2020)と比較し、両言語母語話者の協力体制の構築方法についての考察を試みた。その結果、課題達成談話における提案の際の言語選択において、日本語母語話者の教師・学生では「自他融合的なかかわり」(Fujii 2012、藤井・金2014)が実現していると考えられる一方、アメリカ英語母語話者の教師・学生では、「個対個としてのかかわり」(Fujii 2012、藤井・金2014)に加えて、力関係が下である学生の教師に対する「譲歩」の姿勢が見られることが示唆された。

特別寄稿
  • 日本語における語用論的戦略
    加藤 重広
    2022 年 19 巻 p. 35-50
    発行日: 2022/04/01
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル フリー

    文脈を設定する2つの立場、帰納的文脈と演繹的文脈のうち、本論では後者をとり、文脈に下位区分を設定する。言語による伝達では、言語形式は情報として不要なものを省略したり、細かな情報を大まかな情報に置き換えたりすることは珍しくなく、可能性の高い推論のみを残して低い推論を捨てる単純化や合理化も広く見られる。この種の操作では発話はより粗略(loose)になるが、これを粗略化という方策だと本論は考える。粗略化は形式面と意味機能面で分けることができるので、前者を形式的粗略性、後者を機能的粗略性と呼ぶ。「午後8時を過ぎれば外食ができない」から「午後8時を過ぎていなければ外食ができる」を引き出す誘導推論は、可能性の高い組み合わせのみを残す機能的粗略性の一つと考えることができる。粗略性が利用できるのは文脈的に必要な情報が補充されるからだと考えれば、粗略性は文脈と深く結びつく。演繹的文脈の枠組みでは、文脈から他の文脈が引き出され、発話からも文脈が引き出されて、文脈が過剰に生成される状況を想定する。この枠組みでは、文脈の中に発話が生み出される状況だけでなく、発話から逆算して関連する文脈情報が生成される文脈逆成の作用を重視している。文脈逆成を適用することで、俳句や和歌などの短詩形韻文学の研究に資する面も期待できる。過剰な文脈の多くは推論に使われなければ談話記憶でそのまま消衰していくが、背景的に解釈を深化させる面もある。過剰な文脈は粗略性の方略をより利用しやすくする。日本語を高コンテクスト文化とする文化人類学者の観察はこの方略と整合しているものの、科学的に分析されたことはない。本論では、日本語では省略など粗略性を利用するしくみが多くあるとして分析例を示す。今後、この種のしくみが十分に明らかになれば高コンテクスト文化の実相が科学的に解明できると考えられる。

  • 趙 華敏
    2022 年 19 巻 p. 51-65
    発行日: 2022/04/01
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル フリー

    語用論研究は今世紀に入って以来、ますます研究の範囲が広がっている。その研究の深化によって、いままで解明しがたい言語現象を説明するのに貢献していると同時に、第二言語習得、言語間の対照研究などへの役割も無視できない存在になっている。語用論が求めているのは文法が正しい上に、コミュニケーションの聞き手と話し手の関係から見て適切だということである。

    本論では先行研究の成果を踏まえ、事態把握と同時結節の立場から、中日のメール実例を分析する。その中から、異文化コミュニケーションをするときに、齟齬が生じた原因を探り、適切さを判断する基準を再考する。結論は以下のとおりである。

    その一、適切な言語表現は、話者従来の事態把握の型に合うものである。

    その二、適切な言語表現は、話者の背後にある社会文化の固有の型に合うものある。

    その三、適切な言語表現は、話者の社会文化に支えられた意識態度で産出したものである。

    グローバル化した国際社会において、適切でない言語行動による誤解をいっそう少なくなくすることができるように期待する。

運営委員会企画
2021年待遇コミュニケーション学会春季大会・秋季大会研究発表要旨
  • 依頼メールを対象として
    萩原 喜美子
    2022 年 19 巻 p. 129
    発行日: 2022/04/01
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル フリー

    本研究は、日本語話者の大学院生(日本語母語話者・非母語話者各2名)が依頼のメール文を作成する際、違いのある立場の相手(友人と指導担当教授)に対して行った敬語表現化における工夫と意識を依頼メール文の調査とFUI調査によって明らかにしたものである。

    調査の結果、19種類の敬語表現化の工夫と意識が明らかになり、表現主体はそれらを違いのある立場の相手に対して、次のように使用していたことが分かった。①友人に対しては、「詫び」と「譲歩」に加えて「記号の使用」「述語の省略」「経緯(人選)の詳述」「返答方法の提示」「一時的な依頼取り下げ」という工夫を使用していた。「記号の使用」「述語の省略」では、依頼という場面から醸し出される「重さ」「硬さ」「深刻さ」を「明るさ」「緩さ」「ユーモア」に変えるという「肯定的印象への転換」、「経緯(人選)の詳述」「返答方法の提示」「一時的な依頼取り下げ」では「心情や状況への配慮」を意識していた。②指導担当教授に対しては「詫び」と「譲歩」という工夫を押さえたうえで、「決定権委任の明示」「経緯(状況)の詳述」という工夫を使用していた。表現主体は、相手が目上の立場であるからこそ必要だと考える「敬意の表明」「意思の尊重」「状況への理解促進」を意識していた。③表現主体が立場の違いに関わらず、最も使用していた工夫は「詫び」と「譲歩」という工夫であった。「行動は相手でありながら利益・恩恵は自分」という依頼の持つ「心苦しさ」「困難さ」を乗り越えるために、「申し訳なさの表明」「相手の負担軽減」を意識していた。④「詫び」と「譲歩」に次いで使用していた工夫は、「依頼内容の緩やかなきりだしと詳述」「文体の使い分け」「プライバシーへの配慮」「見通しの提示」という工夫であった。表現主体は「印象の調節」「心情への理解と共感」を意識し、これらの工夫を使用していた。

    この結果から、表現主体の持つ場面に関する認識が意識に反映し、意識に応じた工夫は内容と形式に作用して、依頼メール文の表現となって現れているという「場面-意識-内容-形式」の連動が明らかになった。つまり、依頼のメール文の個々の表現は決して単独で存在しているものではなく、表現の適切さは、この連動の中で初めて判断が可能になるということだといえる。したがって、日本語教育においては、「場面-意識-内容-形式」の連動を提示し、このつながりの中で適切な表現を考えさせることが重要になる。

  • 日本語母語話者と中国人日本語学習者の比較
    昂 燕ニ, 許 亜寧
    2022 年 19 巻 p. 130
    発行日: 2022/04/01
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル フリー

    推薦場面では、話し手と聞き手の立場が明確に分けられており、聞き手の積極的な参加が望まれる。先行研究では、日中の母語場面の聞き手行動に関する分析(植野2012、楊2015)は見られるが、接触場面に着目した分析はほとんど行われていない。そこで、本研究では、日中接触場面の推薦談話において、日本語母語話者(JNS)と中国人日本語学習者(CJL)が聞き手の役割を担当する際、それぞれがどのような言語行動をとっているか分析と考察を行った。

    本研究のデータは、友人・知り合い同士の日中接触場面における、「お互いに何かをお薦めしてみよう」というタスク会話6例である。まず、「推薦談話(推薦対象に直接関連する会話のまとまり)」から聞き手行動を抽出し、5種の上位カテゴリーと11種の下位カテゴリーに分けた。具体的には、(1)働きかけ型(情報伝達、情報要求)、(2)情報確認型(確認要求)、(3)態度表明型(意見・評価、同意、意志表明)、(4)受け答え型(あいづち、理解表明、応答)、(5)その他(先取り、貢献・完成)に分類した。次に、会話例を用いながらJNSとCJLの聞き手行動の特徴を分析し、「会話スタイル」と「会話参加の仕方」の観点から考察を行った。結果は以下の通りである。

    Ⅰ.JNSの聞き手行動には、話し手からの働きかけを受ける「受け答え型」と、自分の意見・評価などを表す「態度表明型」が多かった。一方、会話の主導権をとるような「働きかけ型」の行動が少なく、積極的に会話に参加しながらも、過度に話し手側の領域に踏み込まない傾向が見られた。談話全体から見ると、話し手との共感構築が重視され、「話し手(CJL)が会話を主導する⇔聞き手(JNS)がサポートをする」の展開が多かった。

    Ⅱ.CJLの聞き手行動には、相手からの働きかけに応じる「受け答え型」だけでなく、自分から情報を要求したり、経験や知識を開示したりして、会話を方向付ける「働きかけ型」の行動も多く見られた。談話全体から見ると、話し手との情報交換が重視され、聞き手でも会話の主導権を取り、話し手と協働的に会話を先に進める特徴が見られた。

  • 鉄骨工場における技能実習生に向けられた日本人同僚の発話の分析から
    張 学盼
    2022 年 19 巻 p. 131
    発行日: 2022/04/01
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル フリー

    日本語のスピーチレベル・シフトについての研究が盛んに行われてきたと言えるが、それらに用いられたデータはテレビ番組・講演、又は被験者の親疎関係のような特定の条件を設定した準自然会話からのもので、自然会話に関する研究は少ない。また、接触場面の場合、留学生をはじめ、日本にいる生活者を対象としているが、技能実習生に関するものは管見の及ぶ限り見当たらない。そこで、本研究は、技能実習生を協力者とし、彼らの、実習を行っている現場における自然会話に注目点を置いた。本研究では、指示の多い作業現場、具体的には鉄骨工場をフィールドとし、そこでの、技能実習生に向けられた日本人同僚の発話に注目し、1)様々な場面に応じて、スピーチレベルの割合の変化、2)スピーチレベル・シフトの場合、3)その機能を明らかにすることを目的とした。

    研究結果は以下の通りである。1)スピーチレベルの使用割合について、「丁寧体基調場面」では、丁寧体が97.5%に上ったのに対し、普通体が2.5%に止まった。「普通体基調場面」では、「J→B(C)」(「J」は日本人同僚、「B」は媒介者/通訳者、「C」は技能実習生を指す。以下同様)の場合は、丁寧体が37.9%であるのに対し、普通体が62.1%ある。「J→C」の場合は、丁寧体が5.0%に止まったのに対し、普通体が95.0%に上った。2)行われたスピーチレベル・シフトは「丁寧体基調場面」については5つの場合、「普通体基調場面」の「J→B(C)」には17の場合、「J→C」には5つの場合があることが明らかになった。さらに、「J→B(C)」における17の場合は発話内容から、①事実陳述型、②相手傾向型、③自己主張型、④感情表出型と⑤合図型の5種類に分けられた。機能については、談話標識、待遇標識、心的距離の伸縮と構造標識の4つに分類できた。3)「丁寧体基調場面」と「普通体基調場面」の「J→C」に生じたシフトは一回性のものであるのに対し、「J→B(C)」に生じたシフトにはすぐ主基調の普通体に回帰せず、丁寧体連続使用の現象が観察された。また、先行研究においては指摘がないが本研究の調査では新しく観察された場合は次のようである。ダウンシフトにはルールを明示する場合、アップシフトには客観説明をする場合、説明を諦める場合、1つの作業が終了時の合図を示す場合がある。

  • 日本語母語話者への調査結果との比較から
    滝島 雅子
    2022 年 19 巻 p. 132
    発行日: 2022/04/01
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル フリー

    学習者の中には、美化語を中心とする、名詞に「お」「ご」が付いた語の使い方が複雑で分かりにくいという声が多い。しかし、日本語母語話者にとっても、その用法については必ずしも整理されていないため、日本語教育では、これまで積極的な学びが行われてこなかったという指摘がある。また、学習者の美化語の使用や学習の実態、母語の違いによる差異などに関する検証も乏しかった。本研究では、違う母語を持つ日本語学習者が、美化語をどのように使用し、どのような印象を持つのかについてアンケート調査(中国語母語話者、韓国語母語話者、英語母語話者、男女6名ずつ計36名対象)を行い、日本語母語話者に対する同様のアンケート調査(男女18名ずつ計36名対象)の結果と比較し、その違いや特徴を統計的な手法を用いて分析した。

    アンケート結果の分析から、調査の対象になった5組の語(お金/金、お酒/酒、お勉強/勉強、お店/店、お茶/茶)については、「美化語/非美化語」の選択について、学習者と母語話者との間に有意な差はなかった。しかし「お店/店」の選択に関しては、母語話者にのみ性差との関連が見られ、現代日本語における美化語の性差による使用傾向を学習者に伝える必要性が示唆された。また、美化語の印象に関する記述を共起ネットワークで分析したところ、学習者は美化語に対して、母語話者と同様に「丁寧」「上品」などのポジティブな印象は持っているが、非美化語に関しては、母語話者の回答に見られるような「乱暴」「雑」などのネガティブな印象は持たない傾向があること、また、特に英語母語の学習者に関しては、「美化語は女性、非美化語は男性」という性差と結びついた印象の違いの認識が見られなかった。日本語教育において、美化語と非美化語の印象の違いを対立的に教えることや母語による学習者の認識の違いを考慮した指導の検討が望まれる。

    また、今回のアンケート調査では、美化語の学習方法や難点などについても聞いたが、学習者は、主に授業で教師から美化語を学んでいるが、最終的な習得には、日常生活や職場などでの母語話者との会話やドラマ視聴などを重視していること、困った時にはインターネットを活用する人が多いこと、「お/ごの使い分け」や「相手や場面での使い分け」など、美化語の使用に関して判断に迷う場面が少なくないことが明らかになった。

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