推薦場面では、話し手と聞き手の立場が明確に分けられており、聞き手の積極的な参加が望まれる。先行研究では、日中の母語場面の聞き手行動に関する分析(植野2012、楊2015)は見られるが、接触場面に着目した分析はほとんど行われていない。そこで、本研究では、日中接触場面の推薦談話において、日本語母語話者(JNS)と中国人日本語学習者(CJL)が聞き手の役割を担当する際、それぞれがどのような言語行動をとっているか分析と考察を行った。
本研究のデータは、友人・知り合い同士の日中接触場面における、「お互いに何かをお薦めしてみよう」というタスク会話6例である。まず、「推薦談話(推薦対象に直接関連する会話のまとまり)」から聞き手行動を抽出し、5種の上位カテゴリーと11種の下位カテゴリーに分けた。具体的には、(1)働きかけ型(情報伝達、情報要求)、(2)情報確認型(確認要求)、(3)態度表明型(意見・評価、同意、意志表明)、(4)受け答え型(あいづち、理解表明、応答)、(5)その他(先取り、貢献・完成)に分類した。次に、会話例を用いながらJNSとCJLの聞き手行動の特徴を分析し、「会話スタイル」と「会話参加の仕方」の観点から考察を行った。結果は以下の通りである。
Ⅰ.JNSの聞き手行動には、話し手からの働きかけを受ける「受け答え型」と、自分の意見・評価などを表す「態度表明型」が多かった。一方、会話の主導権をとるような「働きかけ型」の行動が少なく、積極的に会話に参加しながらも、過度に話し手側の領域に踏み込まない傾向が見られた。談話全体から見ると、話し手との共感構築が重視され、「話し手(CJL)が会話を主導する⇔聞き手(JNS)がサポートをする」の展開が多かった。
Ⅱ.CJLの聞き手行動には、相手からの働きかけに応じる「受け答え型」だけでなく、自分から情報を要求したり、経験や知識を開示したりして、会話を方向付ける「働きかけ型」の行動も多く見られた。談話全体から見ると、話し手との情報交換が重視され、聞き手でも会話の主導権を取り、話し手と協働的に会話を先に進める特徴が見られた。
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