本稿では、異なる場面における発話の「感じのよさ」と流暢性の関係を探る。これまでに行った調査では、4つの場面(ストーリーを語る、出来事を語る、依頼、謝罪)での非母語話者(以下、NNS)10名の発話を「感じがよいかどうか」の観点で母語話者日本語教師が評価したところ、流暢性に関するコメントが多くみられ、流暢性が聞き手に与える「感じのよさ」に影響することが示唆された。コメントの内容を見ると、「流暢で感じがよい」「非流暢で感じがよくない」といったコメントがある一方で、依頼や謝罪の場面では、「流暢すぎてよくない」「たどたどしくてよい」というものがあった。つまり、場面によっては流暢であることがマイナスの印象を与え、反対に非流暢であることが好印象を与える可能性がある。そこで、本稿では、各場面の発話が実際にどのようなものであるかを流暢性の観点から分析し、流暢性のどのような要素が「感じのよさ」に影響するかを考察する。
分析対象としたのは、10名のNNSのうち流暢性に関するコメントが多かった6名のNNSによる発話で、CAF Calculatorを用いて、流暢性を発話速度、ポーズ、フィラー、リペアの4つの指標で測定した。測定値を評価者から得られた流暢性に関するコメントと照らし合わせて考察を行ったところ、発話速度が速く、ポーズやフィラーの量や位置が適切であり、リペアが少ない発話は聞き手に流暢な印象を与えることがわかった。また、発話速度が遅くてもフィラーの使用によって流暢な印象を与えることや、フィラーの多用によって不快な印象を与えることも示唆された。流暢な発話はモノローグでは「感じのよさ」につながるが、依頼や謝罪のやりとりではマイナスの印象を与え、反対に、非流暢な発話が「感じのよさ」につながることもわかった。