本研究は、学校で配付されるお便り(以下、学校通信文)の文の形式の複雑さや多様性、丁寧さを実現するための工夫が、外国人保護者が内容について理解することを妨げている可能性があると考え、『学年だより』を対象に調査を行った。学校通信文の中でも特に『学年だより』は、持ち物、行事の詳しい日時や場所について知らせる役割があり、学校や保護者にとって重要なものだと言えよう。しかしながら、保護者の中には外国人もいるため、書き方によっては、文章の意図が正確に伝わらない可能性もある。本研究では『学校お便りコーパス』(http://lixiaoyan.jp/database/)の『学年だより』のデータ(168文)を用いて、重要と考えられる「行動展開表現」の実態調査を行った。具体的には「行動展開表現」に、どのような「表現意図」が多く、どのような文末形式が使用され、「丁寧さ」をどのように実現しているかを分析した。以下に結果を述べる。
表現意図で最も多かったのは「指示」(88.7%)、次いで「勧め」(8.7%)、「許可与え」(2.4%)であった。「指示」・「勧め」・「許可与え」、いずれの文末形式も多様性があり、複数の文型の組み合わせ(例:~テイタダケルトタスカリマス、~トナッテイマス、~(ヲ)シテオキマショウ)のものも多く、「表現意図」が伝わりにくい可能性がある。
また、「丁寧さ」の実現については、以下の三つの方法がとられていた。
①「理解要請表現」の前置き:「行動展開表現」の理由説明として「理解要請表現」を前に置くことで「丁寧さ」を表す。
②「あたかも表現」:「不要な物がないかどうか見てください」という指示内容を、「不要な物がないかどうか気にかけていただけると助かります」のように、「理解要請表現」を使用する(「あたかも理解要請表現」)ことで「丁寧さ」を表す。
③「配慮表現」:相手が忙しいことへの配慮や、依頼内容を重く見せないための一言を加えることで「丁寧さ」を表す。
上述の②と③の方法は、「表現意図」を見えにくくし、文意を曖昧にする可能性がある。
以上の結果より、現状の『学年だより』の「行動展開表現」について、文末形式の複雑
さや多様性、「丁寧さ」を実現する「あたかも表現」や「配慮表現」の使用が、外国人保護者の「表現意図」などの正確な理解を妨げている可能性を示唆している。
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