待遇コミュニケーション研究
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20 巻
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研究論文
  • 流暢性の要素と場面による違い
    篠原 亜紀
    2023 年 20 巻 p. 1-16
    発行日: 2023/04/01
    公開日: 2023/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿では、異なる場面における発話の「感じのよさ」と流暢性の関係を探る。これまでに行った調査では、4つの場面(ストーリーを語る、出来事を語る、依頼、謝罪)での非母語話者(以下、NNS)10名の発話を「感じがよいかどうか」の観点で母語話者日本語教師が評価したところ、流暢性に関するコメントが多くみられ、流暢性が聞き手に与える「感じのよさ」に影響することが示唆された。コメントの内容を見ると、「流暢で感じがよい」「非流暢で感じがよくない」といったコメントがある一方で、依頼や謝罪の場面では、「流暢すぎてよくない」「たどたどしくてよい」というものがあった。つまり、場面によっては流暢であることがマイナスの印象を与え、反対に非流暢であることが好印象を与える可能性がある。そこで、本稿では、各場面の発話が実際にどのようなものであるかを流暢性の観点から分析し、流暢性のどのような要素が「感じのよさ」に影響するかを考察する。

    分析対象としたのは、10名のNNSのうち流暢性に関するコメントが多かった6名のNNSによる発話で、CAF Calculatorを用いて、流暢性を発話速度、ポーズ、フィラー、リペアの4つの指標で測定した。測定値を評価者から得られた流暢性に関するコメントと照らし合わせて考察を行ったところ、発話速度が速く、ポーズやフィラーの量や位置が適切であり、リペアが少ない発話は聞き手に流暢な印象を与えることがわかった。また、発話速度が遅くてもフィラーの使用によって流暢な印象を与えることや、フィラーの多用によって不快な印象を与えることも示唆された。流暢な発話はモノローグでは「感じのよさ」につながるが、依頼や謝罪のやりとりではマイナスの印象を与え、反対に、非流暢な発話が「感じのよさ」につながることもわかった。

  • 高木 美嘉
    2023 年 20 巻 p. 17-33
    発行日: 2023/04/01
    公開日: 2023/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿は、現在、広く使用されている「やさしい日本語」の既存のガイドラインの中で、敬語はどのように取り扱われているかを検証した上で、「やさしい日本語」における敬語の取り扱い方の課題を提示するものである。

    このテーマを取り上げたのは、筆者が授業等で「やさしい日本語」を解説する際、一般書籍や資料の中では、敬語の使用に関して、「使わない」とただ書かれていることが多く、理論的な説明があまりなされていないことに気付いたことが契機になっている。敬語の運用に関する指針についても明確に作成することで、「やさしい日本語」がさらに使いやすいものになることが期待できると考え、現状を調査、整理することにした。

    調査と考察は次の手順で行った。まず、既存の「やさしい日本語」の中で敬語がどのように扱われているか、現状を整理した。現状を知る資料として、一般に販売されている「やさしい日本語」を解説した一般書籍6冊と行政組織がホームページなどで一般市民に公開している「やさしい日本語」の7つのガイドラインの中から、敬語に関する記述内容を検索、抽出し、整理した。その結果、全体的な傾向として、尊敬語と謙譲語は使わないこと、文末の「です・ます」は欠かさないようにすること、依頼表現は「〜てください」に統一することといった、一定の傾向があることがわかった。

    最後に、「やさしい日本語」における敬語の扱いについて、「丁寧さの原理(蒲谷2013)」と「敬語の指針(文化審議会答申2007)」などと照らし合わせて考察し、今後の「やさしい日本語」における敬語の使い方の検討課題を提示した。

  • 柳 東汶
    2023 年 20 巻 p. 34-50
    発行日: 2023/04/01
    公開日: 2023/04/01
    ジャーナル フリー

    待遇コミュニケーションは、コミュニケーションを捉える理論の一つとして、数多くの研究・教育の成果を残してきた。しかし、その成果は、学会誌『待遇コミュニケーション研究』を確認する限り、言語に集中しており、「コミュニケーションは、言語だけで成り立つものではない」という我々の直感と通じないものになっている。言語以外のコミュニケーション行為も視野に入れた、待遇コミュニケーション研究・教育を考えることが、これからの課題になってくるといえる。そこで、本稿では、マルチモーダルの観点を取り入れた待遇コミュニケーションと、待遇コミュニケーションとしてのマルチモーダル・コミュニケーション研究のあり方について、考察を行った。

    研究課題1「マルチモーダルの観点を待遇コミュニケーションの理論に取り入れた場合、どのように捉え直すことができるか」に関しては、形式(かたち)に関する概念である「媒材」「言材」「文話」について、マルチモーダルの観点から考察した。媒材に関しては、音声・文字以外にも表情や視線などの媒材があり、複数の媒材化が互いに関係性を持って同時に行われることを述べた。言材に関しては、コミュニケーション材という概念を提示し、それによって「〈コミュニケーション=行為〉観」というコミュニケーション観が考えられると論じた。文話に関しては、マルチモーダルの観点を取り入れると、手話やモールス符号など、文章・談話に含まれないものを視野に入ると述べた。

    研究課題2「マルチモーダル・コミュニケーションの研究を待遇コミュニケーションとして捉えた場合、どのようなあり方が考えられるか」については、第4章で、二つの研究を採り上げて考察を行った。考察の内容としては、(1)音声・文字以外の媒材によるコミュニケーション行為と、それに関する5つの要素の連動についての研究、(2)ポライトネス理論や敬意コミュニケーションの観点から捉えた研究、(3)教育・学習場面を、コミュニケーションの場面として捉えた上での待遇コミュニケーション研究、が考えられると論じた。

  • 李 婷
    2023 年 20 巻 p. 51-67
    発行日: 2023/04/01
    公開日: 2023/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿は、ビジネスメールにおけるメタ言語表現から読み取れるビジネスパーソンの待遇意識を明らかにし、待遇コミュニケーション論の視点からビジネス日本語教育に還元しようとするものである。まず、教科書を含むビジネスメール関連の書籍10冊、及びデータ使用の承認が得られたウェブサイトより、ビジネスメールにおけるメタ言語表現を761例収集し、データベースを構築した。次に、収集した用例の中で待遇コミュニケーションの枠組みである「人間関係」、「場」、「意識」、「内容」、「形式」に言及しつつ、待遇意識が反映されている用例を選定し、そこからどのような待遇意識が読み取れるのかについて枠組みごとに記述分析を試みた。最後に、枠組みの組み合わせに言及する用例、及びメール全体の文面を示した上で使用されるメタ言語表現から読み取れる待遇意識について総合的に分析した。その結果、「人間関係(自分・相手・話題の人物)」、「場(時間的な位置・空間的な位置)」、「意識(気持ち・認識・意図)」、「内容」、「形式」をどのように捉えて位置づけているのか、ビジネスコミュニケーションをどのような方向に持っていこうとしているのか、部分的ではあるが、具体的なメタ言語表現を通して、ビジネスパーソンの待遇意識を示すことができた。ビジネス日本語教育はビジネス場面の待遇コミュニケーション教育であり、ビジネスメールはビジネスコミュニケーションの縮図であると筆者は捉えている。ビジネス日本語教育の現場においては、ビジネスメールの文面のみならず、どのような待遇意識が読み取れるのか、そこから何が学べるのかについて学習者に考えさせる必要がある。本稿で収集したビジネスメールにおけるメタ言語表現の用例、及びメタ言語表現から読み取れる待遇意識についての分析は、待遇意識を考える際のヒントになるだろう。

特別寄稿
  • 坂本 惠
    2023 年 20 巻 p. 68-82
    発行日: 2023/04/01
    公開日: 2023/04/01
    ジャーナル フリー

    「待遇コミュニケーション」研究を行うにあたり、日本語の「待遇コミュニケーション」がどのようなものであり、どのような研究が必要であるかについて概観した。「待遇コミュニケーション」は日本語を人間関係と場を合わせた「場面」の観点から分析、記述したもので、「敬語」はその一部分を担う要素である。「コミュニケーション」は表現することと理解することを合わせた用語であるが、本稿では表現行為に焦点を当てて日本語の「待遇コミュニケーション」を分析した。表現主体が表したいと思ったこと「表現意図」がどのような過程を経て具体的な表現となるかについて分析、記述することが研究の目的であり、これが明らかになれば、非母語話者が母語話者の表現をどのように受け取り、そして、表現意図を具体的表現に表すことが可能になるという意味で、教育に利するものとなる。

    「表現意図」を具体的表現にするためには、「表現意図」そのものの分析も必要であり、直接的に結びついた具体的表現の研究も必要である。そして、表現意図を実現させるためにそこに影響する要素がある。表現主体が持つ考え方、「配慮」がその一つであり、それは、相手を含む人間関係の要素、表現が行われる「場」の要素、自分自身をどのように考え表現するかの自分自身に対するものの3つがあげられる。そして、表現意図を実現させるための「配慮」を成り立たせるための、日本語に内在する「約束事」とそれを実現させる「装置」についても研究が必要となる。さらには、そのような考え方を成り立たせている日本語そのものについても考えることができる。本稿は「待遇コミュニケーション」研究の位置づけについて考察し、今後の研究の方向性について示唆したものである。

  • 自治体における非母語話者窓口対応の縦断調査から
    栁田 直美
    2023 年 20 巻 p. 83-97
    発行日: 2023/04/01
    公開日: 2023/04/01
    ジャーナル フリー

    近年の在留外国人の増加を受け、わかりやすく情報を伝えるための「やさしい日本語」への注目が集まっている。日本政府は2018年に、すべての省庁で「外国人向けの行政情報・生活情報の更なる内容の充実と、多言語・やさしい日本語化による情報提供・発信を進める」ことを打ち出し、やさしい日本語のガイドラインを作成した。これらを受け、全国の自治体ではやさしい日本語の活用に向けた研修が盛んに行われるようになってきている。しかしながら、特に話し言葉に関するガイドラインや研修は、必ずしも自治体職員の言語行動の分析にもとづいて作成されたものとはいえない。本研究は、自治体窓口における非母語話者対応の実態を明らかにすることを目的として行った縦断調査において、調査期間中に行った「ふりかえり活動」によって窓口対応担当者にどのような意識面の変容がもたらされたのか、また、「ふりかえり活動」の前後の言語行動にどのような変容が見られたのかを分析したものである。分析の結果、窓口担当者間のふりかえり活動には一定の有効性が認められるものの、窓口担当者間のふりかえりだけでは意識化されにくい面や言語行動の変容に直結しない項目があることが明らかになった。このことは、やさしい日本語のガイドラインや研修などに自身やお互いの言語行動を評価する活動を取り入れることでよりその成果が上がる可能性があることと、窓口担当者間のふりかえり活動だけでは意識化されにくい面や言語行動に直結しない項目に重点的に専門家のサポートを行うことにより、「やさしい日本語」というコミュニケーション方略の学習が効率的に進む可能性を示唆しているといえる。

運営委員会企画
2022年待遇コミュニケーション学会春季大会・秋季大会研究発表要旨
  • ビジネス会話における部下役の発話に焦点を当てて
    チッターラーラック チャニカー
    2023 年 20 巻 p. 131
    発行日: 2023/04/01
    公開日: 2023/04/01
    ジャーナル フリー

    本研究では、ビジネス会話における普通体の使用実態を把握するために、上下関係を持つ社内会話において、部下役のタイ人による普通体の使用を課題として扱い、普通体の使用文脈と効果の特徴を解明することが目的である。

    本研究の調査では、タイ人日本語話者(以下、TNS)と社会人の母語話者(以下、JNS)を対象にし、ロールプレイによる会話データを収集した。両者は日系企業に就職している社会人であり、TNSは上級日本語話者である。会話データは、社内の打ち合わせという場面設定であり、TNSが部下、JNSが上司という役割で会話したものである。丁寧体が基本スタイルとして使われた部下役の発話データの中で、本研究では部下役のTNSの発話における普通体の使用を分析対象とした。分析観点に関しては、普通体の使用を文脈別に分析した上で、普通体の効果を考察した。

    分析結果は以下の2点に集約される。1点目、普通体の使用を文脈別に検討した結果、言語的文脈と心理的文脈において普通体の使用が見られたが、言語的文脈における使用が圧倒的に多かったことがわかった。言語的文脈の中で、<内容追加・例挙>、<質問・答え>、<繰り返し・引用>の順に普通体の使用数が上位である。また、新しい話題の導入を含む<話題展開>の文脈において普通体の使用が確認された。<話題展開>における普通体の使用は、先行研究で母語話者による使用に見られなかったため、TNSによる普通体の使用の特徴だと窺える。2点目、普通体の使用による効果を考察すると、言語的文脈における普通体の使用は情報のやり取りのため、情報への焦点という効果が見られた。そして、言語的文脈における普通体が笑いを伴って使用される場合は、ビジネス場面という改まった文脈から一旦逸脱する効果があると考察された。心理的文脈の場合は、相手と同調する際に普通体を用いたことから、共感を示す効果が読み取れた。

    以上、本研究で普通体の使用実態について明らかにしたことを活かして、TNSによる普通体の特徴を日本語教育現場に反映させ、普通体に関して学習者の理解を促進することが望まれる。

  • 篠原 亜紀
    2023 年 20 巻 p. 132
    発行日: 2023/04/01
    公開日: 2023/04/01
    ジャーナル フリー

    本発表では、謝罪場面における発話の「感じのよさ」と流暢性の関係を探る。筆者がこれまでに行った調査では、4つの異なる場面(ストーリーテリング、出来事を語る、依頼、謝罪)での非母語話者(以下、NNS)10名の発話を「感じがよいかどうか」の観点で7名の母語話者日本語教師に評価してもらったところ、流暢性に関するコメントが多く得られ、流暢性が聞き手に与える「感じのよさ」に影響することが示唆された。コメントの内容を見ると、ストーリーテリングや出来事を語る場面では、「流暢で感じがよい」「非流暢で感じがよくない」といったコメントが多かったが、依頼や謝罪の場合では、「流暢すぎて感じがよくない」「たどたどしくてよい」というものが目立った。つまり、場面によっては、流暢であることがマイナスの印象を与え、反対に非流暢であることが好印象を与える可能性がある。そこで、今回は謝罪場面に着目し、謝罪場面の音声が実際にどのようなものであるかを流暢性の観点から分析し、何がどのように「感じのよさ」に影響するかを明らかにした。

    分析対象としたのは、NNS10名の謝罪場面の発話である。謝罪場面のタスクは、「宿題を期限までに提出できなかったことを理由を説明しながら教師に詫び、今後の予定について話す」というもので、ロールプレイ形式でNNSに発話してもらった。流暢性の測定は、PraatとCAF Calculatorを用いて行い、流暢性を発話速度、ポーズ(ポーズ、フィラー)、リペア(繰り返し、どもり、自己修正)の3つの指標で分析した。分析結果を評価者から得られた流暢性に関するコメントと照らし合わせて考察を行った。

    分析の結果、謝罪場面の「感じのよさ」に影響する流暢性、つまり、聞き手によい印象を与えない要素は、発話速度が速いこと、有声区間(ポーズもフィラーもない区間)の拍数が多いこと、ポーズ(特に文と文の間のポーズ)やフィラーが少ないこと、リペアが少ないことであることがわかった。このような要素が重なった場合、聞き手は「謝罪をするには流暢すぎる」といった印象を受ける。このことから、謝罪場面において聞き手によい印象を与えるためには、発話速度、ポーズ、リペアにおいて、ある程度の非流暢性が必要であることが示唆された。

  • 遠藤 直子
    2023 年 20 巻 p. 133
    発行日: 2023/04/01
    公開日: 2023/04/01
    ジャーナル フリー

    本研究は、学校で配付されるお便り(以下、学校通信文)の文の形式の複雑さや多様性、丁寧さを実現するための工夫が、外国人保護者が内容について理解することを妨げている可能性があると考え、『学年だより』を対象に調査を行った。学校通信文の中でも特に『学年だより』は、持ち物、行事の詳しい日時や場所について知らせる役割があり、学校や保護者にとって重要なものだと言えよう。しかしながら、保護者の中には外国人もいるため、書き方によっては、文章の意図が正確に伝わらない可能性もある。本研究では『学校お便りコーパス』(http://lixiaoyan.jp/database/)の『学年だより』のデータ(168文)を用いて、重要と考えられる「行動展開表現」の実態調査を行った。具体的には「行動展開表現」に、どのような「表現意図」が多く、どのような文末形式が使用され、「丁寧さ」をどのように実現しているかを分析した。以下に結果を述べる。

    表現意図で最も多かったのは「指示」(88.7%)、次いで「勧め」(8.7%)、「許可与え」(2.4%)であった。「指示」・「勧め」・「許可与え」、いずれの文末形式も多様性があり、複数の文型の組み合わせ(例:~テイタダケルトタスカリマス、~トナッテイマス、~(ヲ)シテオキマショウ)のものも多く、「表現意図」が伝わりにくい可能性がある。

    また、「丁寧さ」の実現については、以下の三つの方法がとられていた。

    ①「理解要請表現」の前置き:「行動展開表現」の理由説明として「理解要請表現」を前に置くことで「丁寧さ」を表す。

    ②「あたかも表現」:「不要な物がないかどうか見てください」という指示内容を、「不要な物がないかどうか気にかけていただけると助かります」のように、「理解要請表現」を使用する(「あたかも理解要請表現」)ことで「丁寧さ」を表す。

    ③「配慮表現」:相手が忙しいことへの配慮や、依頼内容を重く見せないための一言を加えることで「丁寧さ」を表す。

    上述の②と③の方法は、「表現意図」を見えにくくし、文意を曖昧にする可能性がある。

    以上の結果より、現状の『学年だより』の「行動展開表現」について、文末形式の複雑

    さや多様性、「丁寧さ」を実現する「あたかも表現」や「配慮表現」の使用が、外国人保護者の「表現意図」などの正確な理解を妨げている可能性を示唆している。

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