2022 年 11 巻 2 号 p. 90-100
同種造血幹細胞移植の成功のためには免疫抑制剤を用いた移植片対宿主病(GVHD)の予防・治療が必須であるが,過度な免疫抑制は感染症や腫瘍の再発を招く可能性がある。同種造血幹細胞移植後には,GVHD標的臓器に本来備わっている,組織障害を軽減し恒常性を保つためのメカニズムが,GVHDや前処置によって障害され,GVHDの増悪・難治性に繋がっている。こうした,組織恒常性を保つためのメカニズムを促進することができれば,免疫抑制を強化することなく安全にGVHDを抑制できる可能性がある。本稿では,主たるGVHD標的臓器である腸管を中心に,GVHDによる組織恒常性維持機構破綻のメカニズムについて紹介し,新たなGVHD予防・治療の標的としての可能性について考察する。