日本造血・免疫細胞療法学会雑誌
Online ISSN : 2436-455X
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総説
  • 松岡 賢市
    2025 年14 巻3 号 p. 114-120
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/15
    ジャーナル フリー

     造血細胞移植後の長期的なGVHD制御は,多様化が進む現代の移植医療が直面する命題のひとつである。この10年間,GVHDに関する診断と評価の客観的基準策定と,発症への生物学的経路の理解における進歩を背景に,新規薬剤の開発が着実に進捗している。これまでの移植では,カルシニューリン阻害薬とステロイドがGVHD管理の中心であったが,近年では,①急性期ドナーT細胞増殖を必要十分なサイズに限定するT細胞除去の適用とともに,②発症したGVHDにはステロイドへの曝露を最小化しながら患者個別的な標的治療を目指す方向性が模索されている。今後,個々の患者における病態経路を同定するバイオマーカーの開発と臨床実装は,移植後免疫管理を適切に実施する基盤となろう。客観的情報に基づくアプローチが確立できれば,移植免疫制御においても個別化医療の流れが大きく加速し,より安全で効果的な移植後マネジメントが実現される。

  • 籠谷 勇紀
    2025 年14 巻3 号 p. 121-129
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/15
    ジャーナル フリー

     キメラ抗原受容体(CAR)導入T細胞療法はB細胞性腫瘍,多発性骨髄腫に対して高い初回反応性を示すものの,再発率が高い。治療効果を改善する目的で,エピジェネティック因子やサイトカインシグナルに着目した遺伝子改変により,CAR-T細胞の長期生存能や疲弊への耐性を付与する研究開発が盛んである。また,治療効果に比例して発症リスクが高まるサイトカイン放出症候群などの治療毒性についても,予防・軽減するための研究開発が進んでいる。さらに,CAR-T細胞療法後のT細胞性腫瘍の発症リスクについて腫瘍発症に関わる要因を含めてまとまった報告が出てきており,長期的な安全性についての関心がますます高まっている。本稿ではこれらの観点について,最近の研究成果を概括しながら今後の開発に向けた展望について述べる。

  • 仲地 佐和子, 北村 紗希子, 森近 一穂, 中島 知, 宮城 理子, 上間 道仁, 横田 雄太郎, 宮城 敬, 狩俣 かおり, 山入端 敦 ...
    2025 年14 巻3 号 p. 130-134
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/15
    ジャーナル フリー

     沖縄県では1990年代より血縁者間骨髄移植が行われるようになり2000年以降は年間約40例で推移している。沖縄県の移植医療の特徴として離島や僻地の医療を担う責務に加え,難治性で移植が必要な成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)患者の頻度が高く血液悪性腫瘍に対する移植医療のニーズに対応する県内完結型の医療体制が不可欠であることが挙げられる。医療事故や血液内科医の不足から琉球大学病院における造血幹細胞移植はこれまでに2度の中断を余儀なくされ,バンクを介した移植が実施出来ない時期が長く続き,患者は経済的・精神的・身体的に大きな負担を強いられてきた。その後,非血縁者間移植施設の認定を再取得し,現在では沖縄県内の血液内科専門8施設中,唯一,琉球大学病院のみで実施している。沖縄県の移植医療の経緯と今後の課題について概説する。

  • 荒 隆英
    2025 年14 巻3 号 p. 135-151
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/15
    ジャーナル フリー

     同種造血幹細胞移植後の患者は,移植前処置・免疫抑制剤・移植片対宿主病の発症やその治療等の様々な影響を受けながら,非常に長時間をかけて免疫が再構築されていく。そのため,移植患者は遷延する高度免疫不全を背景として,経過中に様々な感染症に罹患し,時には致死的な経過を辿る。近年では様々な感染症治療薬の進歩により,同種移植後の非再発死亡率は低下し,移植予後は改善しているが,感染症は依然として同種移植患者の死因の2割強を占める重要な合併症の一つである。同種移植後の感染症制御には,個々の患者ごとに,経時的に感染リスク因子を評価しつつ,それぞれの状況に応じた適切な対策を講じることが重要である。本稿では,近年進歩著しい,同種移植後の真菌感染症・サイトメガロウイルス感染症の予防・治療戦略に焦点をしぼり,最新の知見について解説する。

  • 山口 博樹
    2025 年14 巻3 号 p. 152-157
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/15
    ジャーナル フリー

     同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)は,急性骨髄性白血病(AML)の根治を目指すには有用な治療法である。しかしallo-HSCTは治療関連死亡率が高く,移植後のquality of lifeも低下するため予後予測を勘案して適切に実施する必要がある。AMLにおいて多くの遺伝子変異がその発症や再発に関与するが,初発時の遺伝子変異を用いたAMLの予後の層別化は重要である。例えば,FLT3-ITDは予後不良因子として考えられてきたが,併存するNPM1DNMT3A変異やFLT3-ITDのアレル比,FLT3阻害薬の併用によって症例ごとに予後が異なることが明らかになってきた。そこでNPM1変異やFLT3-ITDを標的にした微小残存病変を検索することによって治療反応性に基づく治療の個別化も重要になってくる。本稿ではAMLのallo-HSCT適応決定におけるゲノム解析の意義を概説したい。

  • 稲本 賢弘
    2025 年14 巻3 号 p. 158-164
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/15
    ジャーナル フリー

     慢性移植片対宿主病は同種造血細胞移植後の合併症の一つである。自己免疫疾患に類似した症状を呈し,皮膚,眼,口腔,肺,食道,消化管,肝臓,筋肉,関節・筋膜,生殖器,漿膜などの様々な部位が標的となる。近年,発症メカニズムに関する動物モデルの知見が増え,急性炎症に始まり,慢性炎症・免疫調節不全を経て,最終的に組織の線維化を来して後遺症を残すという,3段階のモデルが定説となり,Th17細胞,Tc17細胞,制御性T細胞,濾胞性ヘルパーT細胞,B細胞,マクロファージ,線維化促進因子などを含む病態機序が明らかとなった。さらにNIH国際基準が定義されたことで薬剤開発のスキームが整備され,現在様々な機序を標的とした分子標的治療薬の開発が世界中で進んでいる。本邦においても体外フォトフェレーシス,BTK阻害薬,JAK阻害薬,ROCK2阻害薬が薬事承認された。海外では抗CSF-1受容体抗体の薬事承認が先行している。

  • 黒澤 彩子
    2025 年14 巻3 号 p. 165-171
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/15
    ジャーナル フリー

     移植後LTFU外来における介入対象は多岐に及ぶ。2018年に行われた移植後LTFU外来の全国実態把握調査から,移植後5年目以降もフォローアップを継続する施設が多いことが示され,移植拠点病院の目標の一つである「移植患者が,どの地域に居住していても,適切な長期フォローアップを受けることができる医療提供体制の構築」のためには,LTFU診療の標準化のみならず,医療者の負担減も重要な課題であることが示唆された。同調査より,晩期合併症に関する情報提供資料などのLTFUツールに対する医療者側からの高いニーズが示され,2019年度より福田班協力者によるLTFUツール全国版の開発がはじまった。現在までに成人移行をサポートするツールを含む7種類のLTFUツールを構築し,学会ホームページに公開されている。2024年度に計画されたLTFU全国調査第三弾では各ツールの活用度や要望についても調査がされる予定である。

  • 曽我 賢彦
    2025 年14 巻3 号 p. 172-180
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/15
    ジャーナル フリー

     造血細胞移植において口腔合併症は頻発し,その合併症は口腔局所のみならず全身状態の悪化と密接に関連する。日本造血・免疫細胞療法学会は2022年に日本がん口腔支持療法学会と共同で「造血細胞移植患者の口腔内管理に関する指針」を発表している。指針では,チームとしての口腔の管理を行うにあたっての推奨事項に始まり,移植前処置開始前,前処置開始後~移植後急性期,移植後早期:好中球回復~数カ月以内,移植後中後期:数カ月以降~,そして移植後晩期:数年以降の時期別の推奨事項,および小児患者に特有な推奨事項が挙げられ,それについての解説が引用文献とともに詳述されている。本総説では,この指針について概説する。さらに,指針の発表以降に,関連国際学会が造血細胞移植患者の口腔内管理において参考となるステートメントおよびガイダンスを発表しており,その情報についても紹介する。

研究報告
  • 西田 徹也, 後藤 辰徳, 城 友泰, 常峰 紘子, 有馬 靖佳, 渡邊 光正, 村田 誠, 新井 康之
    2025 年14 巻3 号 p. 181-187
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/15
    ジャーナル フリー

     本邦において,ステロイド抵抗性・不耐容慢性移植片対宿主病(GVHD)に対して,体外フォトフェレーシス(ECP)が新たな治療選択肢に加わった。しかし,ECP治療を導入している施設は少なく,その地域も限られている。その要因として人的資源の問題が考えられるため,ECP治療に関わる医療者の業務量などについて検討した。1回のECP治療に平均約2時間を要していたが,脱血と返血を同時に行うダブルニードルモードを選択した症例では有意に短かった。また,血液浄化室でECP治療を実施した施設では,看護師,臨床工学技士が関わる平均時間は有意に短かった。静脈アクセスの方法や施設のECP実施場所により,ECP治療時間や医療者が関わる時間に差がみられたものの,医療者の業務量は多かった。今後,医療者の業務負担軽減の取り組みなどの情報共有を行い,ECP治療を必要とする患者にECP治療を提供できる体制を構築する必要がある。

症例報告
  • 力石 健, 佐藤 篤, 小沼 正栄, 南條 由佳, 小泉 沢, 小野 頼母, 其田 健司, 桜井 博毅, 今泉 益栄
    2025 年14 巻3 号 p. 188-192
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/15
    ジャーナル フリー

     免疫再構築症候群(IRIS)は,HIV/AIDS(acquired immunodeficiency syndrome)患者が抗HIV治療を受けた後に見られる合併症で,免疫回復によって既存の感染症が悪化する現象として知られる。IRISは,化学療法や臓器移植後にも発生するとされる。症例は,フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)の10歳男児例。骨髄移植後にCandida parapsilosis菌血症を発症,その後Pneumocystis肺炎を発症した。免疫の回復に伴い過剰な炎症を伴う呼吸不全へと進展し,呼吸管理とステロイド薬治療によって症状が改善した。IRISの特徴は特定の感染症や臓器における炎症の悪化であり,深在性真菌症の際に特にリスクが高い。IRISの診断と早期治療が重要であり,適切なステロイド薬の使用が推奨される。

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