p. Oral43-
【背景・目的】
アジリジンはその高い
ひずみの為に反応性に
富んだ、有機合成上有用な
化合物である。我々は
グアニジニウム塩と芳香族アルデヒドから不斉合成
にも展開できる3-アリールアジリジン-2-カルボキシ
レートの立体選択的な合成法を開発1)し、得られるアジリジンに対し各種条件による開環反応を報告 2)している。今回、これらの反応を天然物合成へ応用
すべく、リグナン類である (-)-ポドフィロトキシン (1) の効率的な不斉合成
及びネオリグナン類である新規2量化フェニルプロパノイド類 2の絶対配置を含む構造決定を目的とした不斉全合成研究を開始した (Figure 1)。
【(-)-ポドフィロトキシン (1) の合成研究】
合成計画
我々が開発したアジリジン化反応により得られる 3-アリールアジリジン-2-
カルボキシレート 3 は C3 位において求核攻撃を受けやすいことを経験的に
認めている。そこで、合成するアジリジン基質の C3 位に 3,4-メチレンジオキシフェニル基または3,4,5-トリメトキシフェニル基 (Ar1) を導入しておくことで、
(-)-ポドフィロトキシン (1) の1つの芳香環ユニットとして利用し、さらにこのものに対し一方の芳香環 (Ar2) による立体特異的環開裂反応を行うことによって、1 に
おけるジアリール部位が構築可能となる。開環体 4 にC環構築のためのC2
ユニットを導入した後、ビニル体 5 に対し更なる官能基変換を行うことで、
(-)-ポドフィロトキシン (1) へと変換しようと考えた (Scheme 1)。
アジリジン開環反応の検討
市販のアルデヒド 6 と別途合成したグアニジニウム塩 7 を反応させトランス-アジリジン3a, 3bを得た後、メチレンジオキシ体 3a に対し、様々な芳香族求核剤 8 を用いて開環反応を行った (Table 1)。電子密度が高い芳香族化合物では
中程度の収率で開環体が得られるものの (entry1-5)、フェノールやアニリン誘導体では、その官能基自身が反応した(entry 6, 7)。一方、トリメトキシ体 3b に対し、
ポドフィロトキシンの部分構造であるメチレンジオキシベンゼンを用いたところ、反応は複雑化した (entry 8) が、セサモール及びその保護体では目的の位置で反応を起こすことを認めた (entry 9, 10)。また、本反応は、Lewis酸としてInCl3 を用いたが、Zn(OTf)2 に変えることでジアステレオ選択比が向上した (entry 10)。
ビニル体 5 の合成
セサモール (8j) 由来の開環体4j を用いてポドフィロトキシンの合成を進めた。CN結合開裂 3) によるアミノ基の除去、Tf化を行った後、Stille反応によりビニル体 5 に導いた。このものの光学純度は再結晶により99% eeまで高められた (Scheme 2)
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【背景・目的】
アジリジンはその高い
ひずみの為に反応性に
富んだ、有機合成上有用な
化合物である。我々は
グアニジニウム塩と芳香族アルデヒドから不斉合成
にも展開できる3-アリールアジリジン-2-カルボキシ
レートの立体選択的な合成法を開発1)し、得られるアジリジンに対し各種条件による開環反応を報告 2)している。今回、これらの反応を天然物合成へ応用
すべく、リグナン類である (-)-ポドフィロトキシン (1) の効率的な不斉合成
及びネオリグナン類である新規2量化フェニルプロパノイド類 2の絶対配置を含む構造決定を目的とした不斉全合成研究を開始した (Figure 1)。
【(-)-ポドフィロトキシン (1) の合成研究】
合成計画
我々が開発したアジリジン化反応により得られる 3-アリールアジリジン-2-
カルボキシレート 3 は C3 位において求核攻撃を受けやすいことを経験的に
認めている。そこで、合成するアジリジン基質の C3 位に 3,4-メチレンジオキシフェニル基または3,4,5-トリメトキシフェニル基 (Ar1) を導入しておくことで、
(-)-ポドフィロトキシン (1) の1つの芳香環ユニットとして利用し、さらにこのものに対し一方の芳香環 (Ar2) による立体特異的環開裂反応を行うことによって、1 に
おけるジアリール部位が構築可能となる。開環体 4 にC環構築のためのC2
ユニットを導入した後、ビニル体 5 に対し更なる官能基変換を行うことで、
(-)-ポドフィロトキシン (1) へと変換しようと考えた (Scheme 1)。
アジリジン開環反応の検討
市販のアルデヒド 6 と別途合成したグアニジニウム塩 7 を反応させトランス-アジリジン3a, 3bを得た後、メチレンジオキシ体 3a に対し、様々な芳香族求核剤 8 を用いて開環反応を行った (Table 1)。電子密度が高い芳香族化合物では
中程度の収率で開環体が得られるものの (entry1-5)、フェノールやアニリン誘導体では、その官能基自身が反応した(entry 6, 7)。一方、トリメトキシ体 3b に対し、
ポドフィロトキシンの部分構造であるメチレンジオキシベンゼンを用いたところ、反応は複雑化した (entry 8) が、セサモール及びその保護体では目的の位置で反応を起こすことを認めた (entry 9, 10)。また、本反応は、Lewis酸としてInCl3 を用いたが、Zn(OTf)2 に変えることでジアステレオ選択比が向上した (entry 10)。
ビニル体 5 の合成
セサモール (8j) 由来の開環体4j を用いてポドフィロトキシンの合成を進めた。CN結合開裂 3) によるアミノ基の除去、Tf化を行った後、Stille反応によりビニル体 5 に導いた。このものの光学純度は再結晶により99% eeまで高められた (Scheme 2)。
Meyers’ 中間体 (17) への変換
得られたビニル体 5 をエポキシ化し、塩基性条件下での環化反応を試みたが、
望みでない環化体 12 が得られる結果となった。そこで、ヨードヒドリン 13 を
合成し、TBS保護後、環化することで、望みのテトラリン 15 を得ることができた。このもののTBS基を除去し、生じた水酸基を酸化した後、塩基性条件下、
ホルムアルデヒドと反応させることで、ジヒドロキシメチル化とシスラクトン化を一挙に行い、既に (-)-ポドフィロトキシン (1) へと誘導されている Meyers’ 中間体 4) (17) へと導き形式合成に成功した 5) (Scheme 3)。
ent-Zhang’s 中間体 (19) への変換
別途ビニル体 5 に塩基性条件下アリルブロミドを反応させアリル化体 18 を
ジアステレオ選択比 3 : 1の混合物として得た。このものを四酸化オスミウムと
過ヨウ素酸ナトリウムで処理することで、Zhangらの合成中間体 6) (19) へと変換
することにも成功した 5)。なお、ジアステレオマーのうち主生成物が、目的の
2S 体であることがわかった (Scheme 4)。
【新規2量化フェニルプロパノイド類 2 の合成研究】
合成計画
出発原料としてブロモフェノール 20 を用い、まず、そのオルト位に炭素鎖を
導入した後、環化反応によりエナンチオ選択的にジヒドロベンゾフラン 21 を合成
する。このものを不斉アジリジン化し、水による開環反応により、目的物 2 の
ベンジル位の不斉中心を立体選択的に構築できると考えた。さらに、このものに
アリル基を導入後、21とのカップリングにより推定構造の1つである2量化
フェニルプロパノイド (S, R, R, S)-2へと導くことができると考えた (Scheme 5)。
ジヒドロベンゾフラニルアジリジン 22a の合成
市販の4-ブロモフェノール (20a) 及び既知の反応 7) にて合成できる4-ブロモ-2-
メトキシフェノール (20b) を原料とし、プロパルギル化、リンドラー還元、
クライゼン転位を経て転位体 27 をそれぞれ得た。生じた水酸基をTBS保護し、Shi不斉エポキシ化反応により、高い光学純度でエポキシド 29 を得た。このものをTBAFにて処理すると、TBS基の除去と同時に閉環反応が進行し、目的のジヒドロベンゾフラン 21 を得ることに成功した。このうち21a を用いて合成を進めた。MOM保護し、ホルミル化、不斉アジリジン化反応 (dr > 20 : 1) を経て目的の
アジリジン 22a を合成することができた (Scheme 6)。
2量化フェニルプロパノイド 2a の合成
アジリジン 22a を酸性条件下、水を反応させたところ、非立体選択的に開環体 23 が得られる結果となった。このものをカルボネート 32 に変換することで分離した後、加水分解、CN結合開裂を経て、塩基性条件下アリルブロミドを反応させることで、アリル化体 24 を得た。このものと先に合成した 30 とのHeck 反応を行った後、エステルの還元、最後にTsOH酸性条件下、MOM基の除去を行ったところ、再びベンジルアルコール部位の異性化が確認されたが、目的の2量化
フェニルプロパノイド 2a を合成することに成功した (Scheme 7)。
【結語】
以上、不斉アジリジン化反応を利用したリグナン類の合成研究を行い、
(-)-ポドフィロトキシン (1) の形式全合成及び2量化フェニルプロパノイド類 2 の推定構造の1つの合成を達成した。後者については、現在別途ルートによる効率的な合成法を検討し、構造決定を完了する予定である。
【参考文献】
1) Hada, K.; Watanabe, T.; Isobe, T.; Ishikawa, T. J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 7705-7706. 2) Manaka, T.; Nagayama, S.-I.; Desadee, W.; Yajima, N.; Kumamoto, T.; Watanabe, T.; Ishikawa, T.; Kawahata,M.; Yamaguchi, K. Helv. Chim. Acta 2007,90, 128-142. 3) Honda, T.; Ishikawa, F. Chem. Commun. 1999, 1065-1066. 4) Andrews, R. C.; Teague, S. T.; Meyers, A. I. J. Am. Chem. Soc. 1988, 110, 7854-7858. 5) Takahashi, M.; Suzuki, N.; Ishikawa, T. J. Org. Chem. 2013, 78, 3250-3261. 6) Wu,Y.; Zhao, J.; Chen, J.; Pan, C.; Li, L.; Zhang, H. Org. Lett. 2009, 11, 597-600. 7) Fujikawa, N.; Ohta, T.; Yamaguchi, T.; Fukuda, T.; Ishibashi, F.; Iwao, M. Tetrahedron 2006, 62, 594-604.