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(+)-ビブサニンA(1)は, 1980年に河津によってViburnum odoratissimum Ker.(和名:サンゴジュ)の葉から単離された,魚毒活性を有するジテルぺノイドである1).その構造的特徴として,不斉四級炭素を含む炭素11員環骨格が挙げられる.この他にも数多くの関連化合物が見出されており,それらの合成研究は活発に行われているが2),11員環型ビブサニンの全合成の報告例は未だにない.そこで,私たちは絶対構造の確認をも目的として,1の全合成に取り組んだ.
1の逆合成解析をScheme 1に示す.1は,2のアリル転位により得られるものとし,2は,3に対する分子内野崎–檜山–岸(NHK)反応によって,炭素11員環骨格を構築することで得られると考えた.3は,上部セグメント4と下部セグメント5とに分割し,両者のカップリングを経て数工程で合成できると考えた.上部セグメント4は,4-ペンチン-1-オール誘導体7より,Sharpless不斉エポキシ化等の数工程にて得られるとし,下部セグメント5は,ゲラニルクロリド9とキラルなアルデヒドとのBarbier型アリル化反応によって不斉四級炭素を構築した8より3),数工程の誘導にて合成できると考えた.
まず,上部セグメント4の合成を行った (Scheme 2).購入可能な酢酸 4-ペンチニル(7)を出発原料とし,末端アルキンにヨウ化水素を付加させることでビニルヨ
ウ素体10とし,アセチル基を除去することによって既知のアルコール11 4)を得た.11を酸化してアルデヒド12とした後,安藤試薬135)を用いたHorner–Wadsworth– Emmons反応を行ったところ,Z-オレフィンを有するα,β-不飽和エステル14を選択的に得ることができた.得られた14のエチルエステル部を還元してアリルアルコール6とし,6に対してSharpless不斉エポキシ化を行うことでエポキシアルコール15とした.さらに,15を酸化することで上部セグメント4を合成した.なお,Sharpless不斉エポキシ化で得られた15の光学純度は,水酸基をベンゾイル化した後,キラルHPLC分析を行うことによって70% e.e.であると決定した.現在,15の光学純度を向上させるための検討を行っている.
続いて,下部セグメント5の合成に着手した.まず,5が有する不斉四級炭素を構築すべく,ゲラニルクロリド9およびL-グリセルアルデヒド誘導体16を基質に用い,亜鉛によるBarbier型アリル化反応を行った(Scheme 3).その結果,生成物のg-付加体として17-A, B, CおよびDの4種類のジアステレオマーが得られたが,このうち,不斉四級炭素を望みの立体化学にて有する17-Bが主生成物となった.なお, 4種類のジアステレオマーは,シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて,それぞれ17-A, Bの混合物(66%,A/B = 1:6)と17-C, Dの混合物(4%)とに分離が可能であった.17-Bがジアステレオ選択的に得られた要因としては,亜鉛によるb-キレーションを含む6員環イス型遷移状態を優先的に経るためであると考えている3).
得られたg-付加体17-A, Bに対し,水酸基をベンジル化して18-A, Bとした後,ヒドロホウ素化–酸化反応を行った(Scheme 4).その結果,ビニル基に第一級水酸基が位置選
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(+)-ビブサニンA(1)は, 1980年に河津によってViburnum odoratissimum Ker.(和名:サンゴジュ)の葉から単離された,魚毒活性を有するジテルぺノイドである1).その構造的特徴として,不斉四級炭素を含む炭素11員環骨格が挙げられる.この他にも数多くの関連化合物が見出されており,それらの合成研究は活発に行われているが2),11員環型ビブサニンの全合成の報告例は未だにない.そこで,私たちは絶対構造の確認をも目的として,1の全合成に取り組んだ.
1の逆合成解析をScheme 1に示す.1は,2のアリル転位により得られるものとし,2は,3に対する分子内野崎–檜山–岸(NHK)反応によって,炭素11員環骨格を構築することで得られると考えた.3は,上部セグメント4と下部セグメント5とに分割し,両者のカップリングを経て数工程で合成できると考えた.上部セグメント4は,4-ペンチン-1-オール誘導体7より,Sharpless不斉エポキシ化等の数工程にて得られるとし,下部セグメント5は,ゲラニルクロリド9とキラルなアルデヒドとのBarbier型アリル化反応によって不斉四級炭素を構築した8より3),数工程の誘導にて合成できると考えた.
まず,上部セグメント4の合成を行った (Scheme 2).購入可能な酢酸 4-ペンチニル(7)を出発原料とし,末端アルキンにヨウ化水素を付加させることでビニルヨ
ウ素体10とし,アセチル基を除去することによって既知のアルコール11 4)を得た.11を酸化してアルデヒド12とした後,安藤試薬135)を用いたHorner–Wadsworth– Emmons反応を行ったところ,Z-オレフィンを有するα,β-不飽和エステル14を選択的に得ることができた.得られた14のエチルエステル部を還元してアリルアルコール6とし,6に対してSharpless不斉エポキシ化を行うことでエポキシアルコール15とした.さらに,15を酸化することで上部セグメント4を合成した.なお,Sharpless不斉エポキシ化で得られた15の光学純度は,水酸基をベンゾイル化した後,キラルHPLC分析を行うことによって70% e.e.であると決定した.現在,15の光学純度を向上させるための検討を行っている.
続いて,下部セグメント5の合成に着手した.まず,5が有する不斉四級炭素を構築すべく,ゲラニルクロリド9およびL-グリセルアルデヒド誘導体16を基質に用い,亜鉛によるBarbier型アリル化反応を行った(Scheme 3).その結果,生成物のg-付加体として17-A, B, CおよびDの4種類のジアステレオマーが得られたが,このうち,不斉四級炭素を望みの立体化学にて有する17-Bが主生成物となった.なお, 4種類のジアステレオマーは,シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて,それぞれ17-A, Bの混合物(66%,A/B = 1:6)と17-C, Dの混合物(4%)とに分離が可能であった.17-Bがジアステレオ選択的に得られた要因としては,亜鉛によるb-キレーションを含む6員環イス型遷移状態を優先的に経るためであると考えている3).
得られたg-付加体17-A, Bに対し,水酸基をベンジル化して18-A, Bとした後,ヒドロホウ素化–酸化反応を行った(Scheme 4).その結果,ビニル基に第一級水酸基が位置選択的に導入され,また三置換オレフィンにも水酸基が導入されたジオール19が得られた.ここで,不斉四級炭素を望みの立体化学にて有する19-Bと,そのジアステレオマー19-AのRf 値が異なり,両者をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離することができた.なお,19-AおよびBは,それぞれがC-7の立体配置に関する1:1のジアステレオマー混合物であった.
次に,得られたジオール19-Bの下部セグメント5への誘導を行った(Scheme 5).ジオール19-Bの第一級水酸基を選択的にTBDPS基にて保護して化合物20とした後,Martinスルフランによる脱水反応を行い,三置換オレフィンを再生して21を単一生成物として得た.続いて,アセトニドの除去およびベンジル基の脱保護を行い,トリオール22とした後,グリコール開裂にてアルデヒド23を得た.23に対して高井–内本オレフィン化を行うことで,下部セグメント5を合成した.
上部および下部の両セグメントが得られたので,これらのカップリングを行った(Scheme 6).下部セグメント5をリチオ化した後,上部セグメント4と反応させることで,第二級水酸基が天然物とは逆の立体化学を有するカップリング体24-Aをメジャー体として,天然物と同じ立体化学を有する24-Bをマイナー体として得た.なお,カップリング体24-AおよびBは,それぞれ上部セグメント4のエナンチオマー由来のジアステレオマーとの混合物として得られた.
続いて,メジャー生成物であるカップリング体24-Aを(+)-ビブサニンA(1)へと誘導した (Scheme 7). まず,24-Aと3-メチルクロトン酸との光延反応を行い,立体反転を伴ってエステル25に導いた.25のTBDPS基を脱保護し,得られたアルコール26を酸化することにより,分子内NHK反応基質27とした.27に対する分子内NHK反応は速やかに進行し,炭素11員環骨格を有する環化体28を立体選択的に得た.なお,上部セグメント4のエナンチオマー由来のジアステレオマーはこの段階で分離でき,28を単一異性体として得ることができた.得られた28に対してp-ニトロ安息香酸との光延反応を行ったところ,期待した通りにSN2´反応が優先的に進行し,ジエステル29が得られた.最後に,ジエステル29のp-ニトロベンゾイル基を選択的に除去することにより,1の全合成を達成した.合成した1の1Hおよび13C-NMRスペクトルは天然物と良い一致を示し,その比旋光度は,天然物と同様に右旋性を示したことより,(+)-ビブサニンA(1)の絶対立体化学を明確に決定することができた.なお,カップリング反応のマイナー生成物24-Bからも,別法にてエステル25へと誘導できることを確認している.
以上のように,私たちは上部および下部セグメント4および5をそれぞれ合成し,両者のカップリングを経て,分子内NHK反応により炭素11員環骨格を構築する合成戦略にて,(+)-ビブサニンA(1)の全合成を達成した.これにより,1の絶対構造を確認することができた.
[謝辞]
天然物ビブサニンAの貴重なスペクトルコピーをご提供くださった,福山愛保教授(徳島文理大学)に感謝申し上げます.
参考文献
1) Kawazu, K. Agric. Biol. Chem. 1980, 44, 1367.
2) Fukuyama, Y.; Kubo, M.; Esumi, T.; Harada, K.; Hioki, H. Heterocycles 2010, 81, 1571.
3) Takao, K.; Miyashita, T.; Akiyama, N.; Kurisu, T.; Tsunoda, K.; Tadano, K. Heterocycles
2012, 86, 147.
4) Ando, K. J. Org. Chem. 1998, 63, 8411.