天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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抗菌ペプチド天然物カイコシン類の全合成および構造機能相関
加治 拓哉村井 元紀倉永 健史浜本 洋関水 和久井上 将行
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p. Poster30-

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抄録

[序]

 近年、抗MRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)薬であるバンコマイシンに対しても耐性菌の出現が報告され、新規な作用機序を有する抗生物質の開発が世界的な課題となっている。一方、in vitroにおいて有望な抗菌活性を示す天然物でも、in vivoでは治癒効果を示さないことも多い。カイコシンE (1a, Figure 1)は、土壌細菌Lysobacter sp.の培養上清から単離構造決定された新規抗菌環状ペプチド系天然物である1。エステル結合により環化した12残基のアミノ酸からなる37員環骨格を持ち、1つのN-メチルアミド、4種類のD-アミノ酸、脂肪酸鎖を構造的特徴として有する。1aはMRSAに対して最小発育阻止濃度(MIC) 4 μg/mLの増殖阻害活性を示し、さらに黄色ブドウ球菌感染マウスに対してバンコマイシン(ED50 = 5.8 mg/kg)以上の治癒活性(ED50 = 0.5 mg/kg)を示す。現在までに、1aは黄色ブドウ球菌の細胞膜に存在するメナキノン(2, Figure 1)を新規な作用標的とし、細胞膜破壊活性を有することが明らかにされている。2は微生物の電子伝達系に必須な補酵素であるが、ヒトの電子伝達系ではユビキノン(3, Figure 1)が利用される。すなわち、1aは、2を作用標的とすることで細菌細胞膜への選択性を示す、これまで報告例のない作用機構を有する。我々は、1aを基盤とした新規抗菌剤の確立を目指し、1aおよび類縁体の網羅的全合成および構造機能相関研究に着手した。

Figure1. Structures of kaikosin E (1a), menaquinone (2) and ubiquinone (3)

[合成計画]

Scheme 1.Retrosynthesis of kaikosin E (1a) and synthesized analogues (1b and 1c).

 精密かつ効率的な構造機能相関を視野に入れ、1a、側鎖構造エピ体(1b)、N-デメチル体(1c)、および鏡像異性体(ent-1a)の統一的固相全合成を計画した(Scheme 1)。固相合成法は液相合成法に比べ、精製工程が簡略化されるために類縁体の迅速合成を可能にする。また、固相上では擬希釈効果によりマクロラクタム化反応が効率的に進行すると予想した。1a–cのグルタミン酸側鎖を樹脂に結合し、側鎖保護基には酸性条件下脱保護可能な保護基(Pbf, t-Bu, Boc, Trt, TBS基)を導入すると1a–cは4a–cに逆合成される。すなわち4a–cは、樹脂からの切り出しと脱保護を同時に行うことができる。続いて、グルタミン酸主鎖に、選択的に除去可能なアリル基を有する5a–cを環化前駆体として設計した。5a–cはFmoc-固相ペプチド合成による伸長と樹脂上でのエステル化反応によって6–16から直線的に合成できるものと予想した。

[フラグメント12aおよび12bの合成]

 1aおよび1bの全合成に用いるフラグメント12aおよび12bの合成をScheme 2に示す。LDAを用いた酢酸エチル17の酸クロリド18への付加によりエステル19を得た。RuCl2[(R)-BINAP]を触媒とした野依不斉還元により光学活性なb-ヒドロキシエステル20へと変換し、加水分解によりb-ヒドロキシカルボン酸21を得た。21とアミン22を縮合してアミド23へと導き、ヒドロキシ基のTBS保護と引き続くBn基の除去により12aを合成した。また、ent-20を19から合成し、同様の変換により12aのジアステレオマーである12bを合成した。

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© 2014 天然有機化合物討論会電子化委員会
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