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我々が以前に単離構造決定した沖縄県産海綿Dysidea arenaria由来の環状デプシペプチドarenastatin A (1)は、ヒト咽頭上皮がんKB3-1細胞に対して非常に強力な細胞毒性(IC50 : 140 pM)を示す1)。また、1の類縁化合物であるシアノバクテリア由来のcryptophycin (2)は抗がん剤として開発が進められ、その合成アナログ化合物は第II相臨床試験まで実施された。一方、我々は、1の作用メカニズムを解析して、1がtubulinの重合をIC50値 2.3 μMで阻害することを報告している2)。しかし、1のtubulin重合阻害活性と比較して細胞毒性は15,000倍以上強力であることから、1は単純なtubulinの重合阻害剤ではなく、細胞内の別の分子にも作用することにより、非常に強力な細胞毒性を発起していることが強く示唆された。そこで、今回我々は、1由来のプローブ分子を合成し、1の強力な細胞毒性に寄与する新たな標的分子の同定を試みた。
1. Arenastatin Aプローブのデザイン
我々はこれまで、1の全合成を達成するとともに、アナログ化合物合成による構造活性相関を検討し3-5)、1の強力な細胞毒性の発現にはエポキシドを含む全ての立体化学が非常に重要であることを明らかにしている。その一方で、1のベンジルアルコール体 (3)は、活性を保持する知見が得られていることから、プローブ分子4は芳香環のパラ位からリンカーを伸ばしbiotin-tagを導入して調製した。さらに、細胞毒性を示さない7,8-epi-arenastatin A (5)由来のプローブ分子6も合成して比較実験に用いた(図1)。
図1 Arenastatin類およびプローブ分子の化学構造と活性
2. 細胞破砕液からの結合タンパク質の同定
我々はまず初めに、KB3-1細胞の細胞破砕液を用いた一般的なプルダウンアッセイにより、プローブ分子4に選択的に結合するタンパク質の同定を試みた。その結果、SDS-PAGE上で約50 kDa(A)および約16 kDa(B)のプローブ分子4選択的に結合するタンパク質を見出した(図2)。しかし、これら2つのタンパク質をLC-MSで解析した結果、Aはb-tubulin (TUBB)、BはTUBBと結合することが報告されているtubulin-specific chaperone A (TBCA)と同定された。また、リコンビナントTBCAタンパク質は、プローブ分子4と直接結合しないことから、TBCAはarenastatin A (1)の結合タンパク質ではないことが明らかとなった。
以上の結果から、細胞破砕液から、一般的なプルダウンアッセイで1の新規結合タンパク質を同定することは非常に難しいと考えた。そこで次に、Phage Display法を用いて、arenastatin A (1)の結合タンパク質の同定を試みた。
図2 細胞破砕液からのarenastatin A (1) 結合タンパク質の同定
3. Phage Display法を用いた結合タンパク質の解析
Phage Displa
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