天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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ワモンゴキブリの集合フェロモンの同定
西村 至央田中 真史上野 民夫松尾 憲忠香谷 康幸佐久間 正幸
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p. Oral20-

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抄録

 ワモンゴキブリPeriplaneta americanaは世界に分布するゴキブリ目昆虫の代表種である。その配偶行動は性フェロモンperiplanone-A,-Bによって引き起されることがすでに知られている1)。一方、ゴキブリ類には若虫も含めて集合性があり、排泄物中に含まれる集合フェロモンによってその行動が引き起されることが、以前から知られていた2)。ワモンゴキブリにおいても集合フェロモンの存在が示唆されていたが3)、その化合物については長らく未知のままであった。今回、オルファクトメーター試験による本種の若虫の誘引活性を指標に4,5) 、本種のフン176kgから得た抽出物を分画・精製し、0.16~4.9mgの試料を得た。各種スペクトル分析により新規天然化合物としてイソクロマノン誘導体6化合物、鏡像異性体を含めれば10化合物の構造を推定して、不斉合成、キラルHPLC、NMR、CDスペクトルを併用して絶対構造を含め、その同定に成功した。さらに、合成フェロモンには天然化合物と同等の誘引活性を認めるに至ったので、それらの結果をまとめて報告する。

【精製方法】

本種のフンのジクロロメタン抽出物について、定法により液-液分配を行った後、その有機相について、シリカゲル、活性炭、スチレンジビニルベンゼン共重合体、そして再度シリカゲルを固定相として、オープンカラムクロマトグラフィーによる精製を順次行った。その間、誘引活性の低下はほとんど見られず、原料からの重量比で110,000倍の精製ができた。さらにシリカゲル順相HPLC で精製したところ、活性を有する4つの活性画分を単離することができた。それぞれについて、ODS、ナフチルシリルの逆相HPLCで精製を加え、6つの活性ピークを得た。それぞれはGC分析で単一のピークを与え、そのGC分取物は所期の活性を有していた。これにより延べ11段階の精製による活性化合物の単離を確認した。これらの画分に含まれる一連の活性化合物は、NMRを中心としたスペクトル分析の結果、すべて8-hydroxy-7-methyl-isochroman-1-oneを共通の基本構造とすることから、periplanolide (PLDと略記)-A, B, C, D, E, Fと呼ぶことにする(Fig.1)。

PLDの化合物名、フンに含まれる鏡像体比、重量、誘引活性をTable 1にまとめた。PLD-AとB、CとDはジアステレオマーの関係にあり、それぞれエナンチオマーを含んでいた。PLD-EとFの立体異性体は、一種類しか得られなかった。誘引活性はどの化合物もほぼ同様の値を示し、ED50=0.28- 0.54 pgの範囲に収まった。PLD-Eの含量は4.9mgと最も多く、得られたPLD全体の72%を占めていた。

【各種スペクトル分析による平面構造の推定】

単離した化合物の構造推定について、PLD-Eを例に説明する(Fig.2)。GC/HR-TOFMSに

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