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1. 序論
Palau’amine (1)は、1993年にScheuerらによって西カロリン諸島に生息する海綿Stylotella agminataから単離・構造決定されたピロール・イミダゾールアルカロイドであり、優れた免疫抑制活性を示すことが報告されている1,2)。構造的特徴として、歪んだtrans-アザビシクロ[3.3.0]オクタン骨格(D/E環)、C16位含窒素4置換炭素を含む8連続不斉中心などが挙げられ、複雑な構造と顕著な生物活性から世界中で高い関心を集めている。このため、これまでに数多くの合成研究が報告されてきたが、全合成の達成は2010年のBaranらによる一例のみとなっている3)。今回我々は、Hg(OTf)2触媒的オレフィン環化反応およびABDE環の1段階構築反応を鍵とする1の全合成を達成したので報告する。
2. 合成計画
Palau’amine (1)の逆合成解析を以下に示す。1の1級アミンおよび2級塩素はジオール2の官能基変換により導き、CF環部のグアニジノ基はジアミン誘導体3のアミン窒素を足がかりとして導入する。3の歪んだtrans-アザビシクロ[3.3.0]オクタン骨格を含むBD環は、4のイミノエステル部位への連続する分子内環化反応により構築できると考えた。4は鍵中間体5を強塩基で処理することにより得られるものと期待した。すなわち、C10位の脱プロトン化と続くヒドラジド窒素の脱離によって、N-N結合の開裂とC10位の酸化が同時に進行すると考えた。5はヒドラジド6からC10位の酸化的修飾を伴う環縮小反応により合成することを計画した。6のC16位含窒素4置換炭素はヒドラジド7のHg(OTf)2触媒的オレフィン環化反応により構築し、7は市販のシクロペンテノン8から導くことにした。
3. C16位含窒素4置換炭素の構築とE環中間体の合成
シクロペンテノン8を出発物質とし、Baylis-Hillman反応に続くアセチル化、Luche還元、TBS保護により9とした後、Ireland-Claisen転位を行いカルボン酸10へと導いた。10とトシルヒドラジドの縮合はDMAP存在下、位置選択的に進行し11を得た 4)。11を1 mol%の水銀トリフラートで処理すると、分子内アミノマーキュレーション反応が進行し窒素環化体13を与え、one-potでTBS基を除去することでC16位含窒素4置換炭素を有するアルコール14が合成できた。次に14の2級水酸基を酸化、続くIBX酸化によりエノン15とした。Baylis-Hillman反応により16とした後、ニトロメタンのMichael付加、続くケトンの還元、1級水酸基のTBS保護を行った。このときニトロメタンの付加はconvex面から進行し、ヒドロキシメチル基は側鎖との反発を避けてantiに制御されることで望みの立体配置を有するE環中間体17が合成できた。5)
4. 鍵中間体の合成
官能基化されたE環中間体17が得られたことから、次に環縮小に伴うC10位の酸化的修飾とピロールの導入を行った。17のヨウ化サマリウム処理と保護基の順次導入によって18とした。次いで18をシリルケテンアミナールへと変換後、NBSで処理することでC10位に臭素を導入した19を得た。なお、臭素の付加はビニル基の立体障害によりconcave面から進行した。次いで、19をMeOH中K2CO3で処理すると、メタノリ
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