天然有機化合物討論会講演要旨集
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海綿Petrosia alfianiから得られた新規xestoquinone類縁体petroquinonesの構造と生物活性
加藤 光田之頭 夏希久木田 沙菜子根平 達夫塚本 佐知子
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p. Oral20-

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海綿Petrosia alfianiから得られた新規xestoquinone類縁体petroquinonesの構造と生物活性

1.はじめに

 Xestoquinoneは、海綿Xestospongia sapraから単離された五環性キノンで1)、その類縁体は細胞毒性や抗菌活性、Na,K-ATPaseの阻害活性など、さまざまな生物活性を示すことが知られている。本研究室では海洋生物資源から生物活性物質を探索しており、今回、インドネシア近海で採集した海綿のエキスについてスクリーニングした。その結果、海綿Petrosia alfianiのエキスに、脱ユビキチン化酵素であるubiquitin-specific protease 7 (USP7) の阻害活性が認められた。USP7は、自己ユビキチン化したMdm2からユビキチンを除去する働きをしている。Mdm2は、がん抑制遺伝子産物p53に対するE3酵素であることから、USP7阻害物質は、有望ながん治療薬になると考えられる。そこで、海綿のエキスからUSP7阻害物質を探索したところ、新規骨格を含む16種のxestoquinone類縁体 (1-16) を得たので、それらの構造と生物活性について報告する。

2.新規xestoquinone類縁体(1-16) の単離と構造解析

インドネシア北スラウェシ州で採集した海綿P. alfiani(湿重量1 kg) を、エタノールで抽出した。抽出物を液々分配後、各種オープンカラムクロマトグラフィーおよびHPLCにより精製し、16種の新規化合物であるpetroquinone A (1, 0.14 mg)、B (2, 2.5 mg)、C (3, 2.9 mg)、D (4, 0.72 mg)、E (5, 1.7 mg)、F (6, 4.2 mg)、G (7, 3.6 mg)、H (8, 1.3 mg)、I (9, 2.7 mg)、J (10, 8.3 mg)、K (11, 0.5 mg)、L (12, 2.8 mg)、1-(2-hydroxyethyl)xestoquinone (13, 6.1 mg)、1-(1-hydroxyethyl)xestoquiononeのC-21のエピマーの混合物 (14と15, 5.9 mg) および3S-3-hydroxyxestoquinone (16, 3.8 mg) を得た。

Petroquinone AとB (1と2) は、高分解能ESIMSにより、どちらもC60H36O12の分子式を有することが分かった。1の1Hおよび13C NMRスペクトルはxestoquinone (17) とよく類似していたが、17のquinone部分に由来する2本のCH由来のシグナルが認められず、新たに2個の四級炭素の存在が認められた (dC 140.4と140.6)。これらのデータは、1がquinone部分で新たな環構造を形成し、対称的な三量体を形成していることを示唆している。一方で、2の1Hおよび13C NMRスペクトルには1に由来する3対分のシグナルが認められたので、2は非対称な三量体であることが示唆された。1と2の6、6’ および6’’ 位の立体配置は、同じ海綿から単離した単量体17が6S体であることから、6S,6’S,6’’Sであると考えられる。1の最安定配座を密度汎関数 (DFT) 法を用いて計算したところ、大きなねじれを有するプロペラ型の配座であることが分かった (図1a)。そのため、1は17や2に比較して比旋光度が非常に大きく (1: +389 (c 0.1, CH3CN); 17: +22 (c 0.1, CH3CN); 2: -6 (c 0.1, CH3CN))、また、ECDスペクトルでも大きな強度を示した(図1b)。

Petroquinone C-H (3-8) は、17を構成単位とする二量体であった。それらの中でも、3は g- および d-lactone環が1個の炭素を共有して結合している構造であることがわかった。これまでに多くの g- あるいは d-lactone環を有する化合物が天然資源から単離され合成されてきたが、2個のlactone環がそのように結合した構造を有する化

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1.はじめに

 Xestoquinoneは、海綿Xestospongia sapraから単離された五環性キノンで1)、その類縁体は細胞毒性や抗菌活性、Na,K-ATPaseの阻害活性など、さまざまな生物活性を示すことが知られている。本研究室では海洋生物資源から生物活性物質を探索しており、今回、インドネシア近海で採集した海綿のエキスについてスクリーニングした。その結果、海綿Petrosia alfianiのエキスに、脱ユビキチン化酵素であるubiquitin-specific protease 7 (USP7) の阻害活性が認められた。USP7は、自己ユビキチン化したMdm2からユビキチンを除去する働きをしている。Mdm2は、がん抑制遺伝子産物p53に対するE3酵素であることから、USP7阻害物質は、有望ながん治療薬になると考えられる。そこで、海綿のエキスからUSP7阻害物質を探索したところ、新規骨格を含む16種のxestoquinone類縁体 (1-16) を得たので、それらの構造と生物活性について報告する。

2.新規xestoquinone類縁体(1-16) の単離と構造解析

インドネシア北スラウェシ州で採集した海綿P. alfiani(湿重量1 kg) を、エタノールで抽出した。抽出物を液々分配後、各種オープンカラムクロマトグラフィーおよびHPLCにより精製し、16種の新規化合物であるpetroquinone A (1, 0.14 mg)、B (2, 2.5 mg)、C (3, 2.9 mg)、D (4, 0.72 mg)、E (5, 1.7 mg)、F (6, 4.2 mg)、G (7, 3.6 mg)、H (8, 1.3 mg)、I (9, 2.7 mg)、J (10, 8.3 mg)、K (11, 0.5 mg)、L (12, 2.8 mg)、1-(2-hydroxyethyl)xestoquinone (13, 6.1 mg)、1-(1-hydroxyethyl)xestoquiononeのC-21のエピマーの混合物 (1415, 5.9 mg) および3S-3-hydroxyxestoquinone (16, 3.8 mg) を得た。

Petroquinone AとB (12) は、高分解能ESIMSにより、どちらもC60H36O12の分子式を有することが分かった。11Hおよび13C NMRスペクトルはxestoquinone (17) とよく類似していたが、17のquinone部分に由来する2本のCH由来のシグナルが認められず、新たに2個の四級炭素の存在が認められた (dC 140.4と140.6)。これらのデータは、1がquinone部分で新たな環構造を形成し、対称的な三量体を形成していることを示唆している。一方で、21Hおよび13C NMRスペクトルには1に由来する3対分のシグナルが認められたので、2は非対称な三量体であることが示唆された。12の6、6’ および6’’ 位の立体配置は、同じ海綿から単離した単量体17が6S体であることから、6S,6’S,6’’Sであると考えられる。1の最安定配座を密度汎関数 (DFT) 法を用いて計算したところ、大きなねじれを有するプロペラ型の配座であることが分かった (図1a)。そのため、1172に比較して比旋光度が非常に大きく (1: +389 (c 0.1, CH3CN); 17: +22 (c 0.1, CH3CN); 2: -6 (c 0.1, CH3CN))、また、ECDスペクトルでも大きな強度を示した(図1b)。

Petroquinone C-H (3-8) は、17を構成単位とする二量体であった。それらの中でも、3は g- および d-lactone環が1個の炭素を共有して結合している構造であることがわかった。これまでに多くの g- あるいは d-lactone環を有する化合物が天然資源から単離され合成されてきたが、2個のlactone環がそのように結合した構造を有する化合物は初めての例である。また、4は13位に結合した酸素と7’位の4級炭素が結合し新たな環を形成した構造であった。34はいずれも、17またはその誘導体が ”head-to-tail” で縮合した構造と考えられるのに対し、5-7は “tail-to-tail” で縮合した構造と考えられる。8は、2個の17がエチリデン基を介して非対称に結合した構造であることが明らかになった。今回単離したxestoquinone誘導体は、生合成的な観点から全て6Sであると考えられるが、確認のため天然物の (6S)-17から6を調製した (quinolone, AcOH, 1,2-dichloroethane, 60℃) ところ、天然物のECDスペクトルと一致したので6は6S,6’S体であることが確認できた。

Petroquinone I-L (9-12) は、高分解能FABMSにより、いずれもC24H21NO7Sの分子式を有することが分かった。9-121Hおよび13C NMRスペクトルにおいて、21位および22位のCH2に由来する特徴的なシグナル (9では dH 3.30, 3.38/ dC 49.2 (C-21) および dH 3.90, 3.94/dC 40.0 (C-22)) が認められたので、9-12はadociaquinone AとB (2021、図2a) 2) の類縁体だと分かった。2021はthiomorpholine 1,1-

dioxide 環を有し、窒素と硫黄原子の結合位置が異なる構造異性体である。9-12は、2021を基本骨格として新たにpyrrolidine-2,4-diol環を形成していることが明らかになった。続いて、9-12の立体配置について解析を進めたが、pyrrolidine-

2,4-diol環は五員環であるため、NOE相関から9-12の相対立体配置を決定することができなかった。そこで、9-12の立体異性体について、13C NMRの化学シフトをDFT法により計算した。その結果、pyrrolidine-

2,4-diol環の2個のhydroxy基がcisまたはtransのどちらの配置をとるかで、化学シフトが大きく異なる傾向を示した (図2b)。計算値と比較することにより、9-12のpyrrolidine-2,4-diol環はtrans配置であることが示唆された。次に、9-12の絶対立体配置を決定するため、pyrrolidine-2,4-diol環の二級hydroxy基のMTPAエステル化を試みたが、反応生成物を得ることができなかった。そこで、DFT法によりECDスペクトルを計算した。すなわち、6位の立体配置は生合成な観点からSであると考えられるので、9/10の (6S,16R,23S)- および (6S,16S,23R)-体と11/12の (6S,13R,23S)- および (6S,13S,23R)-体についてECDスペクトルを計算した (図3)。その結果、(6S,16R,23S)-体は9の260 nm付近の正のCotton効果と300 nm付近の負のCotton効果を (図3a)、(6S,16S,23R)-体は10の230 nm付近の負のCotton効果を (図3b)、(6S,13R,23S)-体は11の310 nm付近の負のCotton効果と350 nm付近の正のCotton効果を (図3c)、(6S,13S,23R)-体は12の230 nm付近の負のCotton効果をよく再現した (図3b)。したがって、9-12の絶対立体配置は (6S,16R,23S)、(6S,16S,23R)、(6S,13R,23S) および (6S,13S,23R) であることが示唆された。

また、1317の1位に2-hydroxyethyl基が結合した化合物だった。141517の1位に1-hydroxyehyl基が結合した構造であり、21位のエピマーの1:1の混合物であった。1617の3S-3-hydroxy体であった。

3.二量体および三量体の生合成経路について

 図4に、二量体および三量体の推定生合成経路を示した。主成分である17とそのhydroquinone体であるxestoquinol (22) が重合して7が生成し、さらに1分子の22が重合して1が生成したと考えられる(図2a)。化合物62は、重合する際の結合位置が異なった構造異性体に相当する。一方、二量体34は、xestoquinol sulfate (23) に水が付加して生じた2417が結合することにより生成したカルボカチオン中間体25から生成すると推定した。すなわち、25において13位に結合した酸素原子が7’ 位の炭素と結合を形成して4が生成し、25からBaeyer-Villiger酸化により生成した26を経てlactone環を有する3が生合成されると推定した(図2b)。

4.単離したxestoquinone類縁体の生物活性

 今回単離した化合物の中で、1-35-81317および19はUSP7に対し強い阻害活性を示した (IC50, 0.13-2.0 mM)。システインプロテアーゼであるUSP7は、触媒部位にチオール基を有する。そのチオール基がquinone環の14位または15位と反応して共有結合を形成することにより、USP7を阻害すると考えられる。しかし、12は14位と15位で他のユニットと結合を形成しているので、他の化合物とは異なった機構でUSP7を阻害していると考えられる。

【謝辞】サンプル採集にご協力いただきましたProf. R. E. P. Mangindaan (Sam Ratulangi University) 、浪越通夫教授および鵜飼和代博士(東北薬科大学)、小林久芳博士(東京大学)に感謝いたします。

【参考文献】

1) Nakamura, H.; Kobayashi, J.; Kobayashi, M.; Ohizumi, Y.; Hirata, Y. Chem. Lett. 1985, 14, 713–716.

2) Schmitz, F. J.; Bloor, S. J. J. Org. Chem. 1988, 53, 3922–3925.

 
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