天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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ザラゴジン酸Cの全合成
川俣 貴裕長友 優典井上 将行
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p. Oral25-

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抄録

【序】

ザラゴジン酸C (1)は、1992年に菌類の一種Leptodontium elatiusより単離・構造決定された天然物である1a)。1は、スクアレン合成酵素に対する強い阻害活性を有するため、コレステロール生合成の抑制作用を示し1)、新規高脂血症治療薬の開発に向けた創薬リード化合物として期待されている。その構造的特徴として、6連続不斉中心を有する特異なジオキサビシクロ[3.2.1]オクタン母骨格が挙げられる。この母骨格上には、3つのカルボン酸、2つのヒドロキシ基、C1位アルキル側鎖部位およびC6位アシル側鎖部位が存在している。高度に密集した親水性の酸素官能基と疎水性側鎖を併せ持つ構造ゆえ、1の全合成は極めて挑戦的な課題である。1を合成する上での最重要課題は、連続するC4,5位四置換炭素の効率的な構築にある。今回我々は、本課題を当研究室で開発したNorrish-Yang光環化反応を鍵とする化学・立体選択的なC(sp3)−H結合のアシル化2)を用いて解決し、1の全合成を達成した。以下に、詳細を述べる。

【合成計画】

1の全合成計画の立案に先立ち、置換基Xの異なる1,2-ジケトン2a, bを用いて、Xの差異がNorrish-Yang光環化反応に与える効果を調査した(Scheme 1)。まず、2a (X = OTBS)を基質としてPh2C=O存在下UV光照射を行った。その結果、連続する四置換炭素を有する6/4-cis-縮環化合物3aが化学・立体選択的に61%の収率で得られた。本反応機構は次のように考察される。まず光励起により2aは1,2-ビラジカルAとなる。続いてAの電子求引性のオキシルラジカルが、電子豊富なシロキシa位のメチン水素原子を化学選択的に引き抜くことで、1,4-ビラジカルBとなる。最後に立体選択的なC−C結合形成を経て3aが生成する。一方、2b (X = OBz)を基質とした場合、反応系は複雑化した。電子求引性であるBzO基の効果により、引き抜かれうる酸素a位メチン水素原子の反応性が低下したためであると説明できる3)

Scheme 1. Effect of functional groups on chemoselective Norrish-Yang photocyclization

以上の結果から我々は、保護基による酸素a位メチン水素原子の反応性の差異を利用すればNorrish-Yang光環化反応の化学選択性を制御できると予想し、1の全合成計画を立案した(Scheme 2)。すなわち、出発物としてC6,7位立体中心をすでに有したグルコノラクトン誘導体4を設定し、C1位アルキル側鎖導入とC5位アシル基導入によって、1,2-ジケトン5を合成する。5を鍵となるNorrish-Yang光環化反応に付すことで、シクロブタノン6へと導く。このとき、BzO基の効果によりC6位メチンC−H結合の反応性が低下するため、鍵となる光反応は電子豊富なエーテル酸素a位であるC4位メチンC−H結合に対して起こる。続いて、6のC3,8,9位の官能基変換によりラクトン7を合成する。7は1の母骨格に必要な全ての立体中心および官能基を有している。7の分子内アセタール交換によって、母骨格を形成し、8へと変換する。最後に、8のC6位にアシル側鎖を導入することで1を全合成する。

Scheme 2. Synthetic strategy for zaragoz

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