天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
第60回天然有機化合物討論会実行委員会
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24. 生体内合成化学治療 生理活性天然物のルネッサンス(口頭発表の部)
*坪倉 一輝Kenward VongAmbara Pradipta中尾 洋一田中 克典
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会議録・要旨集 オープンアクセス

p. 139-144-

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抄録

創薬過程において、試験管内で好ましい活性を示していたとしても、動物での評価時には体内での安定性や副作用などの要因からドロップアウトすることが少なくない。多くの顕著な活性を持つ天然物がこの問題のために創薬候補から除外されてきた。もし直接、疾患動物内で生理活性分子を合成することができれば、これまでに見捨てられてきた多くの分子が再び見直される可能性が生まれる。例えば、動物の臓器や疾患部位に対して選択的に試薬を送り込み、さらにその場で生体夾雑物が存在していても特定の金属触媒反応を起こす技術が発展すれば、現地の望む時間枠で生理活性天然物を合成し(現地合成)、その場で治療(現地治療)することも夢ではない。発表者らはこの新概念を「生体内合成化学治療」と名付け、動物内の血中や標的の臓器上で自在に分子を合成して治療することを目指してきた。今回、哺乳動物内の標的の臓器上で初めて選択的に遷移金属触媒反応を起こすことに成功した。さらにこの哺乳動物内での金属触媒反応を用いて、疾患上で生理活性分子を複合化したり、あるいは天然物誘導体を合成することによって「生体内合成化学治療」を実現したので、これらの経緯について報告する。 1.アルブミン糖鎖クラスターを利用した金属触媒デリバリーシステム  まず、体内の狙った臓器で選択的に遷移金属触媒反応を起こすためには、不安定な金属触媒を短時間で目的の臓器に運搬しなければならない。一般に抗体に金属触媒を結合して運ぶ方法が考えられるが、抗体は巨大分子(分子量:約15万)のため、目的の臓器に到達するには1日程度を要し、血液中を巡る間に金属触媒が壊れてしまう。さらに臓器に到達しても、臓器の細胞内に取り込まれてしまうため、表面で金属触媒反応を効率的に行うことができない。  そこで発表者らは、独自に開発したアルブミン糖鎖クラスター1を利用することを計画した(図1)。この糖鎖クラスターは、発表者らの「理研クリック反応」2によって様々なN-型糖鎖を効率的に導入することが可能であり、糖鎖クラスターの「パターン認識」を経て目的の臓器へ素早く選択的に移行する3,4。特に、末端に(2,6)結合で繋がるシアル酸、およびガラクトースを持つアルブミン糖鎖クラスターは、それぞれ肝臓と腸管に30分程度で移行することが分かっていた。そこでこれらの糖鎖クラスターを遷移金属触媒のデリバリーシステムとして用い、肝臓、および腸管での金属触媒反応を検討することにした。

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