天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
第60回天然有機化合物討論会実行委員会
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40. ボンクレキン酸によるがん細胞選択的細胞障害性の解析(口頭発表の部)
*狩野 有宏深見 契弥Moses Kamita岩崎 琢磨岩田 隆幸新藤 充
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会議録・要旨集 オープンアクセス

p. 235-240-

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抄録

緒言  ボンクレキン酸 (BKA) は、ココナッツ発酵食品による致死性の食中毒成分として同定された天然有機化合物である。その食中毒において、摂取後の血糖値の上昇、それに続く肝臓と筋肉のグリコーゲン放出、そして低血糖を呈し死に至る ことが1930年代に言及されている1。その後1970年代にBKAの構造決定がなされると共に、ミトコンドリアの内膜タンパク質Adenine Nucleotide Translocator (ANT) を特異的に阻害することが示された (Fig. 1)2, 3。ANTはミトコンドリアで産生されたATPをADPとの交換反応により細胞質に供給する役割を持つ一方、他のミトコンドリアタンパク質と複合体を形成して、ミトコンドリア膜透過性遷移孔 (MPTP) を形成する二作用性のユニークなタンパク質である。アポトーシス誘導の際には、MPTPからcytochrome C等の放出が起こり、その後のカスケードが開始される事が報告されている4。このことを踏まえ、BKAがMPTPを塞ぐことによりアポトーシスの誘導を抑制するとの報告があるものの、ANTタンパク質欠損肝細胞もアポトーシスに感受性を有しているとの報告もなされ矛盾がある5, 6。しかしながら、BKAは大量入手が難しいために、生物活性は未だ十分には解明されていない。我々はBKAの効率的全合成及び活性アナログ(第55回本討論会)に関して報告し、その端緒を拓いている7, 8, 9。本研究ではマウス培養細胞を用い、BKAによる細胞障害性について解析を行った。 方法と結果  BKAはがん細胞選択的に細胞障害を誘導する  はじめにWST-8試薬を用いて乳がん細胞4T1に及ぼすBKAの細胞障害性を検討した。種々検討の結果、BKAは4T1の播種細胞数依存的に細胞障害を誘導することを見いだした (Fig. 2A)。2.5万cells/wellにて播種したとき、50 µM以上にて細胞障害性が観察された (Fig. 2B)。一方正常細胞のNIH3T3ではBKAによる細胞障害はいずれも観察されなかった。同様の細胞障害はマウスがん細胞のHepa1-6、B16F1、 およびヒトがん細胞HelaおよびHepG2でも観察している。一方、BKAは細胞死をおこさず、細胞の増殖能にも大きな影響を及ぼさないことを観察している。WST-8は細胞のNADHレベルに応じて呈色すると報告されていることから、実際の細胞内レベルを定量した結果、BKAによって4T1細胞のNADH濃度が低下していることが判明した。BKA刺激によって、細胞NADHレベルが低下し、このことがWST-8試薬による細胞アッセイのレベルを低下させたと考えられた。

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