天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
第60回天然有機化合物討論会実行委員会
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43. α(2,8)オクタシアル酸(ポリシアル酸)の化学合成(口頭発表の部)
鯉沼 僚輔東田 和樹青柳 拓*田中 浩士
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p. 253-258-

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抄録

ポリシアル酸は、生物学上重要な酸性9単糖であるシアル酸が重合した多糖であり、主に、α(2,8)またα(2,9)重合体1,2また、それらの交互重合体3が報告されている(図1)。特に、α(2,8)ポリシアル酸は、脳神経細胞表面に存在し、神経形成に重要な役割を果たしていることが明らかになっている。1)さらに、近年、ポリシアル酸が脳由来神経因子(BDNF)に結合し、脳内のキャリアーとして機能していることが明らかにされている。2)ポリシアル酸をハプテンとして用いて合成した抗体(ポリシアル酸抗体)が、8量体以上のα(2,8)シアル酸1aを認識することから、これら糖鎖をポリシアル酸と呼び、3〜7量体シアル酸(オリゴシアル酸)1bとは区別している。そのため、シアル酸8量体はポリシアル酸が形成する特異な高次構造の最小単位であると考えられている。そこで、ポリシアル酸が形成する高次構造の解明およびポリシアル酸の基盤とした生体機能性分子の創製をために、構造が明らかで重合度が制御された構造の明らかな(2,8)オクタシアル酸(ポリシアル酸)およびその類縁体の合成法の開発が求められている。我々は、これまで化学合成によるα(2,8)シアル酸重合体の合成を検討してきた。その結果、4,5位に環状カルバメート基を有したシアル酸を用いるシアル酸オリゴマー合成法(第一世代)の開発に成功した。3)4,5位に環状カルバメート基は、シアル酸のグリコシル化に対する反応性およびα選択性を向上させるとともに、糖受容体となる8位水酸基の求核性の向上にも寄与する。その結果、世界で初めてα(2,8)テトラシアル酸4の化学合成を達成した。しかしながら、糖鎖伸長とともに、糖受容体の反応性が低下し、グリコシル化収率の大幅な低下がみられたため、それ以上の多量体(ポリシアル酸)の合成は困難であった。本研究では、環状保護基により立体配座が制御された側鎖を有するシアル酸を用いるα(2,8)オクタシアル酸(ポリシアル酸)の化学合成について報告する。 図1オリゴ・ポリシアル酸 図2に第二世代のシアル酸オリゴマーの合成戦略を示す。本合成法では、4,5位にN-アセチル環状カーバマートおよび7,9位に環状炭酸エステルを有するシアル酸糖供与体6と糖受容体7のグリコシル化を基盤としている。得られたグリコシド8は8位の保護基を脱保護することにより、同様な糖受容体7へと変換できる。これを繰り返すことにより、シアル酸のオリゴマーおよびポリマーを合成する。その際、N-アセチル環状カルバマートは、シアル酸糖供与体の高いα選択性の発現に寄与す

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