主催: 第60回天然有機化合物討論会実行委員会
会議名: 第60回天然有機化合物討論会
開催地: 久留米シティプラザ
開催日: 2018/09/26 - 2018/09/28
p. 49-54-
テルペノイドは8万以上の化合物が知られる構造多様な天然有機化合物の一群である。これまでに我々は、麹菌を宿主とする生合成遺伝子群の異種発現によってaphidicolinやpenitrem A、terpestacin等様々な糸状菌由来テルペノイドの生合成経路の解明や酵素的全合成を達成してきた1。物質生産能に優れた麹菌を宿主とすることで、天然有機化合物やその誘導体(生合成中間体)を高い収量で得ながら、生合成経路を解析することが可能となる。本討論会では二種の真菌由来ジテルペンを例として麹菌異種発現系による天然物生合成について議論する。 1. 植物感染時に生産される新規brassiciceneの酵素的全合成 糸状菌Pseudocercospora fijienesisはバナナの病害の原因菌として知られている。本菌は宿主植物への感染時に複数の二次代謝産物生合成遺伝子群を転写活性化する2。それらの二次代謝産物は糸状菌が天然有機化合物を生産する真の意義を知る上で好適な研究対象であるといえ、本研究ではその中のジテルペン生合成遺伝子クラスターに着目した。本クラスター (以下bscクラスター) の各遺伝子産物は、brassicicene (BC) 生合成酵素3と70%以上の高い相同性を示し、BC 類縁体の生合成に関与することが予測された。BCは、Alternaria brassicicolaが生産するジテルペンであり、これまでに10種以上の類縁体が単離されている4。また、fusicoccin Aやcotylenin Aと同様の5-8-5員環骨格を有するbrassicicene A (BC-A) の他に、BC-Dのような5-9-5員環骨格等も知られる構造多様な化合物群である (図1) 。従来5-8-5員環骨格の12位にカルボカチオンが生じた後Wagner-Meerwein転位が進行することが提唱されていたが (図2) 5C、その詳細は不明であった。本研究では特にBCの構造多様性創出において鍵となるこの反応の解明を目指し、研究を行った。 まず、先行研究に基づき生合成経路の初期段階を再構築し、生合成中間体の異種生産を試みた4,5。麹菌NSAR1株に対し、fusicocca-2,10(14)-diene (FD) 合成酵素遺伝子bscA及び2種のP450遺伝子bscBとbscCを導入したところ、期待通りFD-8,16-diol (1) が合成された。さらに、この形質転換体にジオキシゲナーゼ遺伝子bscDとメチル基転移酵素遺伝子bscEを導入したところ、BC類の共通中間体と考えられる既知