抄録
海洋環境の汚染物質として、船底付着阻害剤が挙げられる。海洋付着生物が船底に付着すると、船舶の推進性能に悪影響を与えるため、船底付着阻害剤が使用されてきた。従来の有機スズ化合物を含有する阻害剤は、微量であってもオスの巻貝をメス化させるため、使用が禁止された。そのため、環境にやさしい新規付着阻害剤の開発が望まれている。
Dolastatin 16 (1)は、アメフラシから単離された天然有機化合物である。1) 本化合物は、タテジマフジツボのキプリス幼生に対する強い付着阻害活性と低毒性を併せ持つことから、新規阻害剤のリード化合物として注目を集めている。2) 当研究室では、1の全合成を達成している。3) 次に、活性発現機構解明に向けた構造-活性相関研究を本研究の目的とした。本発表では、1のX部やY部あるいはZ部のいずれかを官能基化した、誘導体2の合成について発表する。
これまでに、上側フラグメントと下側フラグメントにわけ、これらをカップリング及びマクロラクトン化することで全合成を達成している (Scheme 1, X=Y=Z=H)。同様の合成経路を用いる2の合成を計画した。すなわち、XあるいはY部の官能基化は、プロリンの代わりに市販の4-ヒドロキシプロリンを用いることで上側フラグメントを合成する。Z部の官能基化は、先に報告した異常アミノ酸 (dolaphenvaline)の合成法を用いて官能基化することで下側フラグメントを合成することとした。