天理医学紀要
Online ISSN : 2187-2244
Print ISSN : 1344-1817
ISSN-L : 1344-1817
症例報告
下顎区域切除後に発症したtoxic shock syndrome 例
松原 真美庄司 和彦堀 龍介水田 匡信岡上 雄介藤村 真太郎
著者情報
キーワード: TSS, 下顎区域切除術, MRSA, PMX-DHP
ジャーナル フリー

2010 年 13 巻 1 号 p. 63-70

詳細
抄録

Toxic shock syndrome(以下TSS)は1987年にToddらによって初めて報告された症候群であり,黄色ブドウ球菌の産生するTSS toxin-1 (TSST-1)やstaphylococcal enterotoxin (SE)によって起こる全身性中毒疾患とされる.術後に生じるものはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が産生する外毒素が原因となり重篤なショック症状を呈し,短期間で多臓器不全を引き起こし,死に至ることもある.今回我々は舌癌下顎骨再発例の下顎区域切除後にTSSを発症し,救命し得た1例を経験したので報告する. 症例は57歳男性で舌癌T2N0M0の診断で平成218月にCDDP 100 mg/bodyの術前抗癌剤治療後,平成218月末に右上頸部郭清術,pull-through法による舌右半切除術を施行した.pT2N1M0の診断であった.平成22 2月,頸部造影CTにて右下顎骨欠損を認め,精査の結果舌癌下顎骨再発と診断した.再発に対して拡大手術を行い,切除後の口腔底創部は舌弁により一期的に縫合閉鎖した. 手術翌日より嘔吐,40℃の発熱に引き続き血圧低下を認めた.Centers for disease control (CDC)の診断基準ではprobable TSSであったが,創部培養からMRSA (TSST-1 産生株)が検出されTSSと考え早期に治療を開始した.MRSAの由来は不明だが術前に口腔内に保菌していた可能性がある.口腔底創部を完全に閉鎖腔とし,ドレナージが不十分な状態になったことが発症の誘因となったと考えられる.早期に昇圧剤やγグロブリン製剤を使用し,polymixin B immobilized fiber-direct homoperfusion (PMX DHP)を行った.創部の洗浄を繰り返し術後57 日目に全身状態,創部とも改善し退院となった.臨床経過からTSSが疑わしい場合は,PMX-DHPを含め早期に集中管理を開始することが救命につながると考えられた

著者関連情報
© 2010 公益財団法人 天理よろづ相談所 医学研究所
前の記事 次の記事
feedback
Top