天理医学紀要
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症例報告
臍帯血移植後に甲状腺中毒症を合併した 成人T 細胞白血病/リンパ腫の1 例
飯岡 大前迫 善智中村 文彦大野 仁嗣
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2011 年 14 巻 1 号 p. 45-51

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抄録

臍帯血移植後に甲状腺中毒症を合併した成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)症例を経験した.症例は,60歳女性で,第二寛解期に骨髄非破壊的前処置による臍帯血移植を施行した.移植後第21日に,急性GVHD(gradeⅡ)を発症したが,免疫抑制剤の増量により数日以内に改善した.第28日に生着を確認し,その後寛解を維持している.移植から約80日経過後,発熱,下痢や頻拍の症状と,検査所見で遊離サイロキシン高値(>7.7 ng/dL),甲状腺刺激ホルモン(TSH)定値(<0.1 μU /mL ),抗TSH受容体抗体陰性,99m-テクネシウム甲状腺摂取率低値を認めた.甲状腺痛は伴わず,無痛性甲状腺炎による甲状腺中毒症と診断した.発症時の中毒症状を強く認めたため,β遮断薬とプレドニゾロンの一時的投与を必要としたが,発症から2週間後には臨床症状・検査所見は改善した.無痛性甲状腺炎による甲状腺中毒症の病因は十分に解明されておらず,その疾病発症予測は未だ困難なことが多い.臍帯血移植後に発症した今症例では,発症因子として移植前処置における甲状腺傷害と,臍帯血移植に伴う免疫応答の賦活化が考えられた.一方で,GVHD反応とは発症時期や病勢が一致しなかった.ATLL患者における移植後発症の既報告は未だないが,特に自己免疫性甲状腺炎の併発頻度が高いHTLV-1キャリアにおける移植後疾病発症頻度,危険因子,病態の解析が今後望まれる.

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© 2011 公益財団法人 天理よろづ相談所 医学研究所
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