天理医学紀要
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症例報告
左頸部膿瘍を呈し,咽頭食道造影により梨状窩瘻と診断し得た3 歳女児の1 例
田中 寛大芝 剛佐野 史絵吉村 真一郎岡田 雅行三木 直樹松村 正彦水田 匡信野間 惠之南部 光彦
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2011 年 14 巻 1 号 p. 73-79

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抄録

3歳女児.左頸部腫瘤を主訴に当院へ入院した.腫瘤は硬く可動性不良で炎症所見は明らかではなかった.白血球数13,300/μlCRP 1.9 mg/dl.コンピュータ断層撮影および核磁気共鳴画像にて,主に左頸動脈間隙から甲状腺左葉にかけてひろがる病変を認めた.悪性腫瘍を疑い生検を行ったところ,術中に白色膿汁が流出した.膿汁の培養から,口腔内常在菌であるStreptococcus parasanguisを検出した.病理組織では,強い線維化を伴う慢性炎症像を主体とし,好中球浸潤を伴う急性炎症像を散見した.膿瘍が左側にあり,口腔内常在菌が起炎菌と考えられたため,梨状窩瘻を疑った.咽頭食道造影は,梨状窩瘻の診断に有用であると言われているが,患者の恐怖と不安のため施行困難であった.女児は普段からグレープジュースを好んで飲んでいた.そこで,グレープジュースとバリウムを等量ずつ混ぜて,グレープジュースの紙パックに戻し,ストローを用いて飲ませるように工夫した.中身が見えない紙パックに入ったグレープ味の造影剤を,普段のようにストローを用いて飲むことで,比較的良好な協力が得られ,検査を完遂することができた.この時の咽頭食道造影では瘻管を認めなかったが,切開排膿および抗菌薬治療により膿瘍は縮小し,退院した.退院3 か月後に再検した咽頭食道造影にて,左梨状窩から下方に伸びる瘻管を認めた. 小児報告例を集計したところ,特に就学前の小児において咽頭食道造影の有効性が低い可能性が示唆され,これは十分な協力が得られないためと考えられた.本症例の経験から,就学前の小児においても,検査方法を工夫することで,梨状窩瘻診断における咽頭食道造影の有効性が改善する可能性が示唆された

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© 2011 公益財団法人 天理よろづ相談所 医学研究所
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