2020 年 23 巻 1 号 p. 27-39
子宮頸部に発生した腺癌は扁平上皮癌に比べて予後不良であるが,治療手段のための明確なエビデンスは得られていない.子宮頸部神経内分泌腫瘍も,早期よりリンパ節転移や遠隔転移をきたす予後不良な腫瘍であり,子宮頸部浸潤癌の1–2% と稀であるため治療戦略を構築するための前方視的研究が困難である.今回我々は,腺癌と神経内分泌腫瘍が併存したIB2 期子宮頸癌に対して,TC(パクリタキセル+カルボプラチン)療法後に広汎子宮全摘術を施行した症例を報告する.患者は38 歳,2 回経産,既往歴や家族歴に特記事項なし.2 か月前から異臭を伴う帯下の増加を自覚し当科外来を初診した.子宮頸部は全体に腫大し,前腟円蓋と子宮腟部5 時方向の2 か所に浸潤癌を疑う所見を認めた.生検では,前者は不正な管状・乳頭状構造を形成する通常型内頸部腺癌であったが,後者はそれとは異なり大細胞神経内分泌癌の像であった.骨盤部造影MRI でも,内部性状や造影効果・拡散能の異なる2 つの腫瘤が隣接していた.胸部~骨盤部の造影CT ではリンパ節腫大や遠隔転移を疑う所見を認めず,腫瘍マーカーはCEA(13.2 ng/mL)とCA19-9(61.5 U/mL)が高値を示した.子宮頸癌IB2 期の術前診断のもと,手術予定日までの待機期間に術前化学療法としてTC 療法を2 サイクル実施したところ,腫瘍は著明に縮小した.広汎子宮全摘術を施行し,摘出標本を詳細に検討した結果,通常型内頸部腺癌病変の中に,CD56 陽性,synaptophysin 陽性の神経内分泌腫瘍・非定型的カルチノイド腫瘍の病変が併存し,両者の移行も認められ,神経内分泌癌を伴う子宮頸部腺癌と診断した.術後の経過は良好で,TC 療法を4 サイクル追加した.子宮頸部腺癌に対する術前化学療法は,奏効して根治手術が可能であった症例では生存期間を延長するとの報告がある.一方,子宮頸部神経内分泌腫瘍に対する化学療法は確立していない.本症例では,術前化学療法にTC 療法を施行したことにより手術の安全性・根治性を高めることができ予後を改善できた可能性がある.両腫瘍は化学療法の奏効しにくい組織型であり,今後も長期的に慎重な経過観察が必要である.