天理医学紀要
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23 巻, 1 号
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2019年度学術講演会
症例報告
  • 杉本 曉彦, 明保 洋之, 佐田 竜一, 次橋 幸男, 蓑田 紗希, 三宅 啓史, 石丸 裕康, 八田 和大
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 23 巻 1 号 p. 14-20
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/07/17
    ジャーナル フリー

    心因性多飲などによる慢性低ナトリウム(Na)血症では,治療中に水利尿をきたすことがある.これにより,しばしば意図しない血清Na の過補正が起こり,不可逆的な中枢神経障害をきたす危険がある.今回我々は,重症慢性低Na 血症の患者に対して低用量のバソプレシン(arginine vasopressin; AVP) を持続静脈内投与することで,血清Na を安全に補正しえた症例を経験した.統合失調症の既往があり,多飲のエピソードのある64 歳男性が意識障害で救急搬送された.搬送時の血清Na は102 mEq/L で,細菌性肺炎と横紋筋融解を合併していた.集中治療室入院後,多量の希釈尿を認め,血管内脱水と急速な血清Na の上昇をきたし,血圧低下も伴った. AVP を 0.25 単位/hr で持続静脈内投与したところ,尿浸透圧と尿量は適正化され,血圧も安定し,安全な速度で低Na 血 症を補正できた.重症慢性低Na 血症の過補正対策として,特に感染症を合併した際には,低用量AVP 持続静脈内投与が有用な可能性がある.

  • 野原 静華, 明保 洋之, 佐田 竜一, 次橋 幸男, 蓑田 紗希, 三宅 啓史, 石丸 裕康, 八田 和大
    2020 年 23 巻 1 号 p. 21-26
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/07/17
    ジャーナル フリー

    ペニシリン系抗菌薬は低カリウム性代謝性アルカローシスの原因になり得る.その一方,ペニシリン系抗菌薬とアセトアミノフェンを併用した際,ピログルタミン酸が蓄積し,アニオンギャップ開大性代謝性アシドーシス(high anion gap metabolic acidosis; HAGMA) を認めたという報告もある.今回,ベンジルペニシリンカリウム (penicillin G; PCG) 単剤でHAGMA をきたした症例を経験した.59 歳男性がA 群β溶連菌感染による壊死性筋膜炎・敗血症性ショックを発症し,PCG,クリンダマイシンとγ–グロブリン製剤の投与に加え,合併した急性腎不全に対して持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration; CHDF) を受けた.CHDF の終了後に急速に進行するHAGMA を認め,連日の血液透析を要した.PCG 中止後にHAGMA は軽快した.PCG は単剤でもHAGMA を引き起こすことがあり,本症が疑われる場合は原因薬剤の中止を考慮するべきである.

  • 金本 巨万, 大須賀 拓真, 山中 冴, 鈴木 悠, 髙橋 直子, 松原 慕慶, 三木 通保, 藤原 潔, 小橋 陽一郎
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 23 巻 1 号 p. 27-39
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/07/17
    ジャーナル フリー

    子宮頸部に発生した腺癌は扁平上皮癌に比べて予後不良であるが,治療手段のための明確なエビデンスは得られていない.子宮頸部神経内分泌腫瘍も,早期よりリンパ節転移や遠隔転移をきたす予後不良な腫瘍であり,子宮頸部浸潤癌の1–2% と稀であるため治療戦略を構築するための前方視的研究が困難である.今回我々は,腺癌と神経内分泌腫瘍が併存したIB2 期子宮頸癌に対して,TC(パクリタキセル+カルボプラチン)療法後に広汎子宮全摘術を施行した症例を報告する.患者は38 歳,2 回経産,既往歴や家族歴に特記事項なし.2 か月前から異臭を伴う帯下の増加を自覚し当科外来を初診した.子宮頸部は全体に腫大し,前腟円蓋と子宮腟部5 時方向の2 か所に浸潤癌を疑う所見を認めた.生検では,前者は不正な管状・乳頭状構造を形成する通常型内頸部腺癌であったが,後者はそれとは異なり大細胞神経内分泌癌の像であった.骨盤部造影MRI でも,内部性状や造影効果・拡散能の異なる2 つの腫瘤が隣接していた.胸部~骨盤部の造影CT ではリンパ節腫大や遠隔転移を疑う所見を認めず,腫瘍マーカーはCEA(13.2 ng/mL)とCA19-9(61.5 U/mL)が高値を示した.子宮頸癌IB2 期の術前診断のもと,手術予定日までの待機期間に術前化学療法としてTC 療法を2 サイクル実施したところ,腫瘍は著明に縮小した.広汎子宮全摘術を施行し,摘出標本を詳細に検討した結果,通常型内頸部腺癌病変の中に,CD56 陽性,synaptophysin 陽性の神経内分泌腫瘍・非定型的カルチノイド腫瘍の病変が併存し,両者の移行も認められ,神経内分泌癌を伴う子宮頸部腺癌と診断した.術後の経過は良好で,TC 療法を4 サイクル追加した.子宮頸部腺癌に対する術前化学療法は,奏効して根治手術が可能であった症例では生存期間を延長するとの報告がある.一方,子宮頸部神経内分泌腫瘍に対する化学療法は確立していない.本症例では,術前化学療法にTC 療法を施行したことにより手術の安全性・根治性を高めることができ予後を改善できた可能性がある.両腫瘍は化学療法の奏効しにくい組織型であり,今後も長期的に慎重な経過観察が必要である.

平成31年度・令和元年度受賞
  • 北井 順也, 黒田 真衣子, 田巻 庸道, 濵﨑 眞希, 濱口 侑大, 美馬 響, 小島 秀規, 山﨑 誠太, 田村 章憲, 岡本 寛樹, ...
    原稿種別: 令和元年度受賞
    2020 年 23 巻 1 号 p. 42-43
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/07/17
    ジャーナル フリー

    85 歳男性.前日からの胸部不快感を自覚し救急搬送された.下壁誘導とV1–V6 誘導のST上昇と心筋逸脱酵素上昇を認め急性冠症候群が疑われた.緊急冠動脈造影では左回旋枝に100% 閉塞を認め,血栓吸引と薬剤溶出性ステント留置により再灌流に成功した.しかし術後もST は上昇し続け,心膜摩擦音を聴取したことから急性心膜炎を疑い第4 病日より高用量アスピリンを開始した.第5 病日に約6 時間の経過でショック状態に至り,心嚢水著増を認めた.心膜炎増悪と心破裂の可能性を考えたが高齢であり保存的加療の方針となった.第7 病日にアスピリンを増量し,第13 病日には心嚢水消失とST改善を認めた.本症例は心筋梗塞発症後に急激な心嚢水の増加を認め複数の病態が考えられた症例であり,若干の文献的考察を踏まえて報告する.

  • 吉岡 明治, 北川 孝道, 松下 陽子, 植東 ゆみ, 下村 大樹, 嶋田 昌司, 松尾 収二
    原稿種別: 令和元年度受賞
    2020 年 23 巻 1 号 p. 44-45
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/07/17
    ジャーナル フリー

    当院の深部静脈血栓症(DVT)診断における下肢超音波検査(US)の現状を把握する目的に実態調査を行った.【対象および方法】対象は2016 年4 月~2018 年6 月に当院でDVT 診断を目的にUS とD-dimer 検査が施行された825 例(DVT 既往,治療経過症例は除外).性別は男性386 例,女性439 例,年齢は平均71.2 歳である.DVT 検出状況,依頼内容の調査,さらにDVT 群と非DVT 群での下肢症状およびD-dimer 値の比較を後方的に行った. DVT 診断はUS にて行い,血栓存在部位を膝窩静脈より中枢側が中枢型,末梢側が下腿型として分類した.なお,D-dimer 値の基準範囲は<1.0 μg/mL である.2 群間の比較において連続変数はt 検定,名義変数はχ2 検定を行い,p <0.05 を有意差ありと定義した. 【結果】DVT は26%(217/825 例)に認め,中枢型85 例(39%),下腿型132 例(61%)であった.主な依頼内容は,下肢症状(浮腫・腫脹・圧痛)45%,D-dimer 上昇22%,脳卒中19%であった.DVT 群と非DVT 群の比較において,年齢は74.3歳,70.1歳とDVT群が有意に高く(p= 0.022),下肢症状は片側性が36%,23%とDVT群が有意に高かったのに対し(p <0.05),両側性は9%,21%と非DVT 群が高かった(p <0.05).また,D-dimer 値は14.5 μg/ mL,5.5 μg/mL とDVT 群で有意に高値であり(p <0.001),基準範囲の症例(137 例)は全て非DVT 群であった. 血栓部位別にみると,片側性は中枢型DVT が有意に高かったが(中枢型59%,下腿型21%),D-dimer 値に有意差を認めなかった(中枢型14.0 μg/mL,下腿型13.8 μg/mL). 【考察】DVT 既往や治療症例を除外した本検討では,D-dimer 値が基準範囲ではDVT を認めず,D-dimer はDVT の除外に有用でありUS 削減に寄与できる.一方,D-dimer 値が基準範囲を超えるとDVT 以外の要因が多いため, D-dimer 上昇とDVT の関連性は乏しかった.さらに,D-dimer 値と血栓部位との関係も認めず,臨床所見と組み 合わせての診断が必要といえる.下肢症状が片側性は中枢型DVT が多く,D-dimer 上昇を伴う症例において積極的にUS を施行すべきと考えられる.

  • 小阪 慎, 小林 昌弘, 花尻 康人, 大林 準, 北川 孝道, 嶋田 昌司, 松尾 収二
    原稿種別: 令和元年度受賞
    2020 年 23 巻 1 号 p. 46-47
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/07/17
    ジャーナル フリー
  • 岡上 雄介, 児嶋 剛, 鹿子島 大貴, 田口 敦士, 長谷部 孝毅, 山本 浩孝, 庄司 和彦, 堀 龍介
    原稿種別: 令和元年度受賞
    2020 年 23 巻 1 号 p. 48-49
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/07/17
    ジャーナル フリー

    【背景】強大音から蝸牛を防御するアブミ骨筋反射(SR)は,音刺激が閾値を超えると両側の顔面神経核が刺激され両側性に生じる.検査としてはインピーダンスオージオメトリーによるレフレックス検査があるが,アブミ骨筋が収縮してアブミ骨の可動が耳小骨やMI joint を逆行に経由して鼓膜まで可動したものを間接的に検出しているにすぎない.そのため,真の閾値は測定できておらず,実際はさらに小さな音刺激でもSRが生じているはずである.SR を直接観察することができれば,より正確な閾値を評価することができるはずである. 【目的】正確なSR 閾値を測定する方法の開発 【対象と方法】健側耳聴力が正常かつ患側の鼓室に病変を伴わない,局所麻酔下に内視鏡下耳科手術を施行する患者を対象とする.術中に健側耳への音刺激にて対側耳に生じるSRを内視鏡下にアブミ骨の可動を直接確認し閾値の測定を行う.また,鼓室に銀ボール電極を設置し,筋電図を測定することにより,電気生理学的にも閾値を評価する. 【結果】内視鏡下にSRを直接確認することができた.術前のレフレックス検査によるSR閾値と比べて,内視鏡下で観察した最小音刺激閾値は低かった.アブミ骨筋筋電図も測定することができ,内視鏡下に観察した閾値とほぼ同じであった. 【考察】この検討結果はSRのより正確な閾値を測定する方法の開発に寄与する.本検討の臨床応用として,末梢性顔面神経麻痺の超早期予後診断への活用が挙げられる.SRが検出されれば顔面神経麻痺は回復しやすいとされているが,検出されなくても麻痺が回復することも多く,レフレックス検査では正確な予後診断に限界がある.それは,SRの真の閾値を測定できていないことが関係しており,より正確な閾値を測定できれば,予後診断の精度も向上するはずである.今後更なる検討を行っていく.

  • 長谷部 孝毅, 堀 龍介, 児嶋 剛, 岡上 雄介, 藤村 真太郎, 鹿子島 大貴, 田口 敦士, 庄司 和彦
    原稿種別: 令和元年度受賞
    2020 年 23 巻 1 号 p. 50-51
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/07/17
    ジャーナル フリー

    【目的】顔面神経麻痺疾患において,予後予測,治療効果判定のために正確な評価が必要である.誘発筋電図(electroneurography; ENoG)などの電気生理学的評価方法の他に,柳原法などに代表される顔面各部位の動きを評価し,その合計で麻痺程度を評価する主観的評価方法が簡便であり広く使われている.しかしながら,顔面表情の動きを見た目で評価する方法は複数あるものの,いずれにも共通する欠点として,あくまで主観的評価のため検者間で差異が生じる可能性がある他,各部位は3 段階評価のため,わずかな改善などを点数では評価しきれないという点が挙げられる.それらを解決する方法として,画像解析による評価方法はいくつか報告されているが,解析の手間や装置の問題などから広くは使われていない.一方で,近年米Apple 社の販売するスマートフォン(iPhone X 以降) は,その認証方式として顔認証を用いており,顔面運動を正確に捉えることが可能である.そこで我々は,顔面神経麻痺に対する客観的かつ簡便な評価方法を確立することを試みた. 【方法】iPhone XS を用いて検証した.各顔面の部位の動きを係数化し最大値を取得し,左右の比較を行うことで顔面神経麻痺を評価するアプリを作成した.それを用いて外来受診した顔面神経麻痺患者の評価を行い,主観的評価法との比較,及びENoG,積分筋電図との比較を行った. 【結果】アプリでの評価は既存の主観的評価方法と相関しており,特に頬,鼻翼,口角では強い相関が見られた.また,ENoG では相関関係が見られなかったものの,積分筋電図でも相関が見られた. 【結論】デバイスは一般に普及しているため,臨床応用に向けての素地は整っており,目的としていた客観的かつ簡便な評価アプリは開発出来た.顔面の動きの捉え方は,病態生理に基づきさらなる検証およびアップデートが必要ではあるが,非耳鼻科医,さらに言えば患者本人でも現状評価を行うことができるようになることが期待される.

  • 北 宗高, 小西 高史, 小西 優斗, 日野 泰平, 山本 大輔, 田邊 文衞, 北川 祥美, 奥田 孝直, 八倉 健二, 西岡 宏之, 林 ...
    原稿種別: 令和元年度受賞
    2020 年 23 巻 1 号 p. 52-53
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/07/17
    ジャーナル フリー

    【背景】上腕動脈や橈骨動脈からアプローチする心臓カテーテル検査において, 従来は簡易的に自作した固定具を用いていたが,この方法では上肢を安定して保持することが難しいことから,時には検査に支障をきたす場合もあった.また, 最近は遠位橈骨動脈からアプローチする場合もあることから,これまで以上に手や指の角度を安定して保持することの重要性が増した.【目的】心臓カテーテル検査において,手や指の角度まで安定して保持できる,上肢穿刺用の固定具を考案して実用化する.【新固定具の開発ポイント】①U 字管に沿わせるように上肢を置くことで,上肢の内外転の動きを最小化できた.②手掌は常にボールを握るようなアイデアを採用した.このボール部分は両端に磁石を付けたビニールチューブで押さえて固定する構造とした.また,磁石が吸着するようにU 字管の裏面に鉄板を付加した.③手関節とU 字管の間に角度を付けたスタイロフォームを挟むことで, 橈骨動脈からの穿刺時には背屈位,遠位橈骨動脈の穿刺時には尺屈位を保持できるようにした.④不要になった防護衣の一部を固定具の側面に取り付けて,術者の散乱線被曝の減少に努めた.【評価方法】心臓カテーテル検査に従事する診療放射線技師12 名を対象に, 従来の方法と今回作成した新固定具に関してアンケートを実施した.アンケートの内容は,①内外転の有無, ②内外旋の有無,③使用時の不快感, ④固定具の取り付け易さ,合計4項目について5 段階で評価した.さらに,臨床における使用感を術者から聞き取りを実施した.【結果】アンケートの結果 , 上記の①~③の設問については,新固定具の評価が高かった. ④については,従来とほぼ同様の手間で取り付けられるという結果であった.術者からの聞き取り結果は,「橈骨動脈から穿刺をした時にはしっかり背屈できており安定していた.」,「腕の内外転のズレもなかった.」,「遠位橈骨動脈からの穿刺時は, しっかり尺屈できている肢位がとれたのが良かった.」,「指を開いている事でワーキングスペースが確保できた.」などの好意的な感想が多かった.【考察】新固定具の評価が高かったのは,U 字管に沿わすように上肢全体を固定できるため,問題となる動きを抑制できたことが,これまでにない点として評価されたと考える.また,固定具の脱着に関する作業に関する改善はなかったが,従来法よりも確実に穿刺に適した肢位を保持できる点が,術者の高評価につながったと考える.【結語】上肢からアプローチする心臓カテーテル検査において,手や指の角度まで安定して保持することのできる固定具を臨床現場に提供して高い評価を得ることができた.

Pictures at Bedside and Bench
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