2023 年 26 巻 1 号 p. 32-53
ALK (anaplastic lymphoma kinase)遺伝子は染色体2p23に位置し,膜貫通型受容体チロシンキナーゼをコードしている.染色体転座・逆位によってALKの3′側の配列がパートナー遺伝子の5'側の配列に結合し,腫瘍原性キメラ蛋白質をコードする.その結果,下流のシグナル伝達経路が活性化し腫瘍発生に至る.ALK融合遺伝子は,造血器腫瘍を含む異なる系統の多様な腫瘍に認められる.ALK陽性未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)は,末梢性T細胞リンパ腫のサブタイプで,免疫組織化学染色(IHC)によるCD30とALKの発現を特徴とする.ALK陽性ALCLの約70–80%の症例ではt(2;5)(p23;q35)/NPM1::ALKを認め,ALK IHCで核・細胞質染色パターンを示す.残りの症例では,ALKは多様なパートナー遺伝子と融合し,パートナーによって様々なALK染色パターンを示す.ALK陽性大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)は,びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫全体の1%未満を占めるに過ぎないが,免疫芽球・形質芽球様の細胞形態を特徴とする.t(2;17)(p23;q23)/CLTC::ALKを伴うALK陽性LBCLは,ALK IHCで細胞質顆粒状染色パターンを示す.inv(2)(p23q13)/RANBP2::ALK を伴う急性骨髄性白血病(AML)はAMLのなかの稀なサブセットで,単球分化とモノソミー7を特徴とする.ALK融合遺伝子が認められた髄外形質細胞腫・多発性骨髄腫は,ALK陽性LBCLと細胞形態や免疫形質が共通する.ALK陽性組織球症は,近年見出された稀な組織球症で,大半の症例でKIF5B::ALKが認められる.細胞表面CD30分子を標的とする抗体薬物複合体であるブレンツキシマブ・ベドチンは,ALK陽性ALCLの一次治療または再発・難治症例に対する二次治療として承認を受け,単剤または他の抗腫瘍剤と組み合わせて投与される.第1世代から第3世代のALKチロシンキナーゼ阻害剤は,再発・難治性のALK陽性造血器腫瘍に対して顕著な効果を示し,これらの新規薬剤を含む治療戦略が試みられている.