抄録
【目的】本研究は,いまだ明らかとなっていない特発性正常圧水頭症(idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus : iNPH)患者の転倒の既往とそれに起因する骨折の発生頻度を調査することを目的とした。【方法】対象は2009年4月より2014年4月まで,当院脳神経センターにてシャント手術を施行したdefinite iNPH 291例(LPシャント276例,VPシャント15例)。probable iNPHと診断した際,治療を行う前に本人,家族に詳細を問診で聴取した。独居の認知症などの理由で正確な問診が行えなかった32例を除外した。【結果】definite iNPHと診断した259例(男性156例,女性103例,平均年齢±SDは78.2±6.9歳)中,228例(88.0%)に転倒の既往があり,65例(25.1%)に骨折を認めた。転倒はiNPH に特有の歩行障害が出現した後に生じており,症状の軽い段階から生じていた。骨折後iNPHの診断までには数か月から5年(平均1年3か月)経過していた。【考察】転倒は,iNPHの歩行障害の特徴である,立ち上がれない,足が上がらない,止まれない,方向転換時にふらつくことに関係し,排尿障害が加わっての頻回の夜間歩行,認知障害に起因する判断力の低下,高齢者の俊敏性低下,骨粗鬆症などが骨折率の高さに影響していると考えられた。【結論】iNPHは易転倒性の疾患であり,転倒骨折の頻度が高い。転倒骨折患者を診療する医師,訪問看護師,ケアマネージャーと連携して早期診断・治療につなげていくことが重要である。