抄録
炭素鋼S45Cと合金工具鋼SKD61に対して,粉末液層被覆によるAl拡散浸透ならびにプラズマ窒化処理を行うことで,以下の結果を得た。
(1)Al拡散浸透処理の初期段階において,S45C表面にはFe2Al5がc軸を基板面法線に揃えて生成した被覆層が形成される。その後,被覆層から拡散層にAlが供給され,被覆層はAl濃度の低下に伴ってFeAl2,α-Feへと変態するとともに,α-Feの拡散層がγ-Feの基板内部に向かって成長する。この時,α-Feの固溶限を超えたCはγ-Fe側へ押し出されるとともに,拡散層終端部のAl濃度は系に存在するCの影響によって,高純度Fe基板の場合よりも高い値を示す。
(2)SKD61においても同様にα-Feの拡散層が柱状生成するが,Al拡散浸透処理温度(1303K)においても安定なV炭化物およびVとCrの複炭化物がα-Fe中に残留した組織が得られる。
(3)SKD61に対するAl拡散浸透処理後のプラズマ窒化処理により,Al拡散浸透部が窒化されることでHV1200~1600の硬さが得られ,直下の窒化層ではHV1200から単調に硬さが減少し,基板硬さ(HV570)に至る硬さ推移曲線が得られる。改質層の表面XRDにおいて,窒化前の状態から大きくひずんだα-Feならびにε-Fe3N,γ'-Fe4Nが同定されるが,Alの存在状態を特定することは困難で,ウルツ鉱構造としても岩塩構造としても有意な量のAINは確認されない。