季刊地理学
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論説
大規模畑作地域における集約型農業の展開過程
—北海道小清水町のユリ生産を事例に—
両角 政彦
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2020 年 72 巻 3 号 p. 162-182

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抄録

 本稿では,グローバル化への産地適応の事例として,大規模畑作地域における中規模経営体による集約型農業の導入から転換までの過程とその要因を明らかにし,社会経済的意味を考察した。北海道小清水町で1990年に導入された集約型農業のユリ生産は,球根の輸入緩和措置を背景に流通業者を通じてオランダ産の球根を調達して,従来とは異なる商品性の高い非食料農産物を生産し,新たな市場取引の枠組みに参入する経営選択であった。中規模経営体による畑作複合経営内におけるユリ生産の経済的効果は,家計を補う危険管理手法の一つとして機能してきた点にある。球根生産地区では観光ユリ園を運営して町の集客にも寄与し,切花生産地区では農家数の減少が鈍化した。農家らは,価格変動と産地内変動の影響を受けて,経営分化と離農が進む過程で組織的取組みを中止し切花生産からは撤退することになった。二つの地区の取組みは,町花をエゾスカシユリとする町に対して,地域の産業として実質的な価値を付与し,「ユリのまち」としてのイメージ形成に貢献した点に社会的意味がある。多様な経営体による地域の特性を活かした取組みは,食料基地とは異なる側面から地域の付加価値を高める可能性もあることが示された。

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© 2020 東北地理学会
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