2023 年 75 巻 2 号 p. 51-63
本研究では,宮城県富谷丘陵の新第三紀堆積岩地域を事例として,表層崩壊地の土層回復時間を見積もり,表層崩壊の発生周期を検討した。本地域内の1986年崩壊地および1947-1961年崩壊地の土層厚に基づくと,低位遷急線付近に位置する崩壊地の土層回復時間は,100-250年程度と推定された。他方,1986年豪雨の再現期間は,最大24時間降雨量にて100-1000年以上と広範な値を示した。しかし,豪雨の発生は確率的な現象と理解されることから,表層崩壊の再発生は,当該箇所の土層回復により大きく依存していると考えられる。したがって,本地域の表層崩壊の発生周期は100-250年程度と捉えるのがより妥当と考えられる。
We conduct an estimation of the soil thickness recovery time after the occurrence of shallow landslides, and elucidate landsliding recurrence period in the area underlain chiefly by the Neogene sedimentary rocks, the Tomiya Hills, north of the Sendai City, Northeast Japan. On the basis of soil genesis in the landslides occurring in 1986 and 1947-1961, and a power series regression by the least absolute value estimation, the recovery time is inferred to be approximately 100 to 250 years. While, from the rainfall records of the 4 meteorological stations in the vicinity of the investigated area, a wide range of values, from around 100 years to more than 1, 000 years, can be calculated for the return period of the maximum 24-hour rainfall of the 1986 event, which triggered about 2, 000 landslides or more. The occurrence of heavy rainfall, however, is essentially dominated by stochastic and random processes;thus consequently, the recollapse at the same locality on slopes, is more strongly dependent on the soil thickness recovery, which can generally be regarded as a time-series phenomenon. It is, therefore, appropriate to understand the recurrence period of shallow landslides based mainly on the recovery time.
丘陵地斜面を覆う土層は,表層崩壊によって侵食され,谷底に土砂として堆積し,流水によって流域外へと排出される。流域全体の土砂流出プロセスおよび速度を解明するには,ある時間単位で発生する表層崩壊の頻度を検討する必要がある。流域内での表層崩壊発生の時間頻度が真に一定といえないことは論をまたないが,そのような時間頻度の差を包含する表層崩壊発生の周期性を検討する研究はこれまで数多く実施されている(たとえば,Iida,1999)。
しかしながら,斜面の微地形単位(田村,1974など)を限定して表層崩壊の発生周期を検討した例はこれまでかなり少ない。東日本には,丘陵地斜面上に数段の遷急線が存在し,しばしば低位遷急線付近にて表層崩壊が多発するとされる(たとえば守屋,1972; 羽田野,1974)。とくに,これらの地域では低位遷急線下方の下部谷壁斜面にて,現在を含む後氷期に表層崩壊が多発した事例が存在する(田村,1974,1987; Tamura,1981など)。また,低位遷急線上方の上部谷壁斜面に比して下部谷壁斜面上での斜面物質移動が,より顕著であるとの実証例が数多く報じられている(田村・宮城,1987; 吉永,1990; 吉木,1993; Chatterjee,1995,1999; Tamura et al.,2002など)。流域下流へ多量の土砂を供給しうる低位遷急線付近の斜面では,他の微地形単位に比べて表層崩壊の時空間的発生頻度が高く,下流への土砂供給量を算定するにあたっては,低位遷急線付近の斜面を対象として表層崩壊の発生周期を検討することは重要である。
これまで表層崩壊の発生周期を解明するにあたって,斜面上の土層回復という観点からは,崩壊地内に生育する樹木の年代や,文献調査および聞き取り調査,空中写真判読により崩壊発生時期と土層の厚さの回復に要した年数を推定し,表層崩壊の発生周期が検討されてきた(Trustrum and De Rose,1988; Smale et al.,1997; 下川,1989; 市川・松倉,2001; 若月・松倉,2008)。しかし,これらの研究は複数の微地形単位におよぶ表層崩壊の発生周期を複合的に評価している。また,崩壊起源の土砂堆積物に挟在するテフラや埋没有機物層の年代を推定することで表層崩壊の発生周期の検討も進められてきた(吉永・西城,1989; Li and Tamura,1999)。しかし,これらの周期は,堆積物採取地点背後の斜面全体から当該地点に至った土砂流出の平均的な周期であり,同一斜面の崩壊周期を明らかにしたものではない。
低位遷急線付近の斜面は,斜面下方に向かって多量の土砂を供給しており,それゆえ,低位遷急線下の土層の厚さは増加しやすいと考えられる。そこで,本研究では崩壊発生後の斜面上における土層厚の経時変化を推定し,それに基づき表層崩壊の発生周期の検討を試みた。その際,地質構造が比較的単純な新第三紀堆積岩で構成される宮城県富谷丘陵を研究対象地に設定した。
合わせて本稿では,該当地域を対象として表層崩壊の発生周期と土砂流・土石流1)の発生周期との関係を検討し,流域全体の土砂流出のプロセスを論じる。ここでは,約8 haと20 haの2次小流域を対象として,流域出口の谷底堆積物に挟まる埋没土壌の年代測定結果に基づいて,過去約1,000年間に,300-400年間隔で谷底を埋める土砂流が再発したことが明らかにされている(Li and Tamura,1999)。後述するように,本地域は1986年8月に豪雨を誘因とする表層崩壊が多数発生したが,その際の単一崩壊地面積と比して上述の小流域面積は,平均的には150-400倍程度である。そのため,流域出口に達する土砂流が,小流域内にてどの程度の面積頻度で発生した表層崩壊に起因するものなのか,不明な点が存在している。
富谷丘陵は仙台市街北方に位置し(第1図),その北側には吉田川,南側には七北田川が流れており,富谷丘陵は両水系によって開析されている。稜線の標高は最高で200 mを少し超える程度である。地質の大部分は,上~中部中新統志田層群により構成され(北村ほか,1983,1986; 石井ほか,1982,1983; 鈴木ほか,2019),いずれも半固結砂岩である。基盤構造は西に最大で10°程度傾斜している。
仙台管区気象台によれば,降雨量と気温の平年値はそれぞれ1,276.7 mm,12.8°Cである2)。植生の大半は人工林から構成されている。現地調査を実施した地域には(第1図),谷底近傍の斜面にスギ,尾根周辺の頂部斜面や上部谷壁斜面にヒノキが植林され,尾根に広葉樹が分布する傾向にある。

Aには富谷丘陵の分布位置を示し,Bには富谷丘陵の概観図を示した。等高線間隔は20 mであり,等高線上の数字は標高を表す。等高線は国土地理院発行10 m DEMより作成した。なお,現在大規模人工改変地となっている地域に関しては,図中に崩壊地の位置を示していない。(電子版ではカラー)
1986年8月4-5日にかけての豪雨の際,富谷丘陵南東部では2000箇所近い表層崩壊が発生し(田村・宮城,1987),特に低位遷急線下方の下部谷壁斜面に集中していた(Chatterjee,1999)。田村・宮城 (1987) の地形学図によれば,個々の崩壊地面積は0.03-0.1 ha,平均0.05 ha程度である。この豪雨の累積雨量(継続時間)は仙台管区気象台402 mm (30時間),大衡観測所281 mm (30時間),塩竈観測所394 mm (31時間)であり,最大1時間降雨強度は43 mm,33 mm,37 mmであった(第2図)。仙台管区気象台の8月の月平均降雨量は166.9 mmであり,1日強で月平均の約3倍の降雨量を観測したといえる。いずれの地点においても豪雨直前10日間の先行降雨量はほぼ0 mmであった。
1986年豪雨の発生に先立ち,1983年4月27日に対象地域の一部に林野火災が発生した。林野火災の被害域は約860 haに及んだとされ(宮城県総務部消防防災課,1984),表層崩壊の多くは林野火災の被害域で発生していた(田村・宮城,1987)。

気象庁仙台管区気象台,AMeDAS大衡観測所,同塩竈観測所のデータを使用した。
調査対象の崩壊地を選定するため,空中写真判読により,複数の時期の表層崩壊発生地の分布箇所を明らかにした。まず,1984年および1988年国土地理院撮影空中写真を用いて,1986年崩壊地(崩壊発生から2019年まで約32年経過)を抽出した。表層崩壊の発生箇所は林野火災の被害域外にも広がっている。そのうち,火災域内から4箇所,域外から2箇所の計6箇所を対象として現地調査を実施した。次に,1947年米軍および1961年国土地理院撮影空中写真を用いて,1947-1961年崩壊地(崩壊発生から2019年まで約58–72年経過)を抽出し,そのうち,3箇所を調査対象とした。これらの崩壊地は,1986年表層崩壊地の中で高い頻度で分布する崩壊面積を考慮し選定した。
調査対象とする崩壊地を含む流域は,主として高位および低位遷急線と遷緩線により微地形分類され,頂部斜面,上部谷壁斜面,下部谷壁斜面,麓部斜面および谷底からなる(第3~5図)。それらの微地形は,田村(1987)に準じて分類された。1984年国土地理院撮影空中写真を用いて判読を行い,一部の地域では国土地理院5 mDEMから作成された傾斜量図のメッシュグリッド値の変化から傾斜の変換線の位置を推定した。特に,調査対象の崩壊地付近に関しては一部斜距離1 mの斜面測量器を用いて実施された簡易縦断測量の結果も反映されている。
土層厚測定は,低位遷急線付近の斜面で実施した。崩壊地内での土層厚測定は,低位遷急線付近に崩壊源頭部を持つ斜面で実施した。同様にして,非崩壊斜面では,付近に調査対象の崩壊地がある低位遷急線付近の斜面で実施した。非崩壊斜面は,斜面の横断方向に滑らかであり,表層崩壊発生時に形成される滑落崖の痕跡がない上に,地表面付近の乱れが少ないという特徴を持ち,比較的長期間にわたって表層崩壊が発生していない斜面と認識される。

該当地区は宮城県県民の森に位置している。等高線は国土地理院発行5 m DEMより作成した。等高線間隔は2 mであり,等高線上の数字は標高を示す。当地区ではa,bの崩壊地を対象として調査を行い,aに関する詳細データを第8図に示した。

崩壊地内および非崩壊斜面の土層厚の特徴を明らかにするため,土層厚の測定や土壌層位の観察,測定地点の傾斜の測定,簡易貫入試験を実施した。土層厚を測定するため,1 m長検土杖を地表面から鉛直方向に差し込み,検土杖の挿入限界深度までの層厚を土層厚として測定した。非崩壊斜面上では33点を対象とした。崩壊地内では,崩壊源頭部から最大傾斜方向へ中心線を設定し,滑落崖から下方,斜距離にしておよそ8 mの距離を超える位置まで縦断測量を行い,斜距離およそ2-3 m間隔で土層厚を測定した。この区間に堆積域は含まれていない。土層厚測定地点の傾斜は,斜面測量器1 mの測定値に基づいている。並行して,ペドロジスト懇談会(1984),小山・竹原(2013)に基づき,土壌層位を観察した。崩壊地内の土壌層位は概して薄いため,時に1 cm程度の層厚の土壌層位も認定した。ならびに,測定地点と近接した地点で筑波丸東製簡易貫入試験機を用いて簡易貫入試験を実施し,10 cm貫入に要する打撃回数をNc値とした3)。非崩壊斜面では崩壊源付近の22地点を対象として,崩壊地内では約3地点を目安として試験を実施した。
第6図に,低位遷急線付近に位置する,上部谷壁斜面から下部谷壁斜面内中腹にかけて存在する土層の特徴を示す。いずれの地点においても,A層の厚さは10-20 cm程度である。また,C層上面やR層上面にNc値が5前後に急増する深度が存在しており,それらの深度は100 cmより薄い傾向にある。しかし,崩壊地cの滑落崖付近にある上部谷壁斜面最下端付近に位置する土層は局所的に厚くなっている。IIA層最上部の14C年代はModern (IAAA–182432; pMC=105.67±0.27%)であり,埋没腐植層のIIA層とそれより上位の層との境界は明瞭であり,IA・IB層は崩積性の土層である。
1986年崩壊地のすべり面は,現在の崩壊地地表付近に存在したと考えられるが,そのすべり面と非崩壊斜面土層断面との空間的連続性を辿ると,非崩壊斜面下,C層上面〜R上面の層準に連続するように観察される。この層準はおおむねNc=5の層準に相当し(第6図),第6図の3地点も含め,検土杖の挿入限界深度はNc=5の深度付近であることが多い。このことから,本地域の表層崩壊すべり面はNc=5相当の深度とほぼ一致し,当該深度付近は,Nc値が急激に上昇する深度である上,検土杖の挿入限界深度であることを考慮すると,この層準の上下では力学的強度の差が比較的大きいとみなされる。
第7図に,土層厚と傾斜との関係を示す。測定値の傾斜は20°-54°の範囲にあり,土層厚は45-136 cmの範囲にある。回帰直線を決定したところ,R2=0.290,p値<0.01となった4)。斜面上の土層の厚さは,20°以下に限定すると傾斜の減少とともに急激に増大するが,20°を上回る区間に限定すると,第7図のように,一次関数にほぼ近似可能な傾斜-土層厚関係となる。


横軸は傾斜の正接であり,縦軸は鉛直方向への土層厚である。
第8・9図に代表的な1986年崩壊地と1947-1961年崩壊地の縦断測量結果を示す。第8・9図によれば,崩壊地内部にはいくつかの傾斜の変換線が認められ,傾斜の変換線付近では土層厚が増減しているが,大局的には滑落崖から斜面下方に土層厚は減少する傾向にある。この傾向は崩壊時期が古いものほど顕著である。また,崩壊時期が古いものほど,Nc=10を超える深度が深くなる傾向にある。
さらに,崩壊発生時期に応じた土層厚の特徴を見出すため,崩壊源内の平均的な土層厚や傾斜を求めた(第7図)。崩壊地内部の土層厚は古いものほど厚い傾向にある。また,いずれの土層厚も非崩壊斜面より薄い傾向にある。


土層が,ある程度時間が経過して厚さを増し,大雨の浸透による土層の飽和など,斜面不安定化をもたらす誘因があれば表層崩壊に至るという仮定を元に,表層崩壊の発生周期を議論する。まず,非崩壊斜面の土層厚に達したとみなせる回復基準を設定した。土層厚は主として傾斜に依存すると考えられ,第7図の回帰直線に基づく土層厚の母集団95%信頼区間を求めた。さらに,本研究の調査対象の崩壊源平均傾斜である31-43°における,上記信頼上下限区間の土層厚最小最大値を求めたところ,59-89 cmと算定された。この数値は,露頭に現れたすべり面深度とほぼ一致しており(第6図),その範囲内に含まれる土層厚を崩壊地内の土層厚の回復基準とする。
上記を受けて,Jury et al. (1991),Minasny and McBratney (1999)にならい,土層厚–経過時間の関係式をは ① 式のように提示する。
h=a+b√t+ct … ①
hは土層厚 (cm),tは時間 (2019年に達するまでに要する年数:yr),aは崩壊時に除去しきれずに残った土層厚を表し,b,cは時間項の係数である。その他の単純な関数として対数関数が存在するが(Mellor,1985; Trustrum and De Rose,1988),実証データを当てはめる際に生じる誤差は ① 式のほうが小さいとされる(Minasny and McBratney,1999; De Rose,2013)。また,① 式は斜面上の土層生成地形発達モデルと整合している(Minasny and McBrateney,1999)。これらを踏まえ,本研究では崩壊地における土層厚の経時変化の検討に焦点を当てるため,① 式を用いた。
① 式の係数の決定には,最小二乗法に比して値のばらつきに引きずられ難い(たとえば,村井ほか,1981; 末吉,1997)絶対値最小法を適用した。この時,崩壊源および侵食的流送域では崩壊発生時に相対的に力学的強度の小さい土層は全て除去されたと考えられることからa=0とおいた。そのため,実際に値を決定したのは,b,cの値である。また,1986年以外の崩壊地年代が1947-1961年と幅を持つため,1947-1961年崩壊地を1961年崩壊(58年前)および,1947年崩壊(72年前)とする2事例に場合分けした。得られた係数の値は,第1表に示した。
得られた係数に基づいて,土層の回復時期を推定した。その際,時間経過に伴う土層の厚さと土層の生成速度,同生成速度変化率を算定,検討した。① 式と諸係数に基づけば,土層生成速度は80年ごろからおおむね変化しないとみられる。生成速度変化率も約30 年経過にて-0.01 cm/yr2を下回り,80年にはほぼ0となる。そこで,80年以降の土層の生成速度を一定とみなした。それを踏まえ,非崩壊斜面の土層厚(前述の59-89 cm)に達する年数を見積もると,おおむね100–250年となった(第10図)。
| a | b | c | |
| 58 yrの場合 | 0 | 5.67 | 0.01 |
| 72 yrの場合 | 0 | 5.34 | -0.02 |

佐野 (1999) は富谷丘陵において1986年表層崩壊を発生させた豪雨について,当時の総観場の状況,降雨の時空間特性,および再現期間について検討している。このうち確率降雨量に関して,仙台管区気象台における1時間降雨量,1日降雨量,2日間降雨量をそれぞれ40 mm,295 mm5),402 mmとし,対数正規分布に適合させ,それぞれの再現期間を4.0年,259.8年,および396.8年と算定した。また崩壊発生地点近傍の県民の森事務所自記雨量データにおける1時間,1日,2日間各降雨量 (36 mm,259.5 mm,359.5 mm) を便宜的に仙台管区気象台の確率降雨量に照らし合わせ,それらの再現期間を3.1年,120.5年,204.1年とした。以上を総合し,また外挿推定での参考値であることを明言しつつ,1986年豪雨を約200年に1度規模の大雨と結論した (佐野,1999)。
筆者らも,仙台管区気象台,AMeDAS大衡観測所,同塩竃観測所および鹿島台観測所を対象として豪雨の再現期間を再検討した。当時の最大24時間降雨量は,それぞれ381.0 mm,273.0 mm,387.0 mm,268.0 mmであり,これに基づく再現期間は1000年以上,109.7年,97.9年,222.3年と算定された。これらの再現期間は,仙台管区気象台データについては佐野 (1999) が提示した同地点降雨量再現期間に基づき,またAMeDAS観測所3地点データは,仙台管区気象台と比較し観測年数が小さいことから,独立行政法人土木研究所 (2003) による,一般化極限分布による確率降雨量およびフェア式による確率降雨強度式に基づき,それぞれの地点ごとに見積もったものである。
ある表層崩壊発生斜面が,再び降雨による表層崩壊が発生するまでの時間には,土層厚の回復時間や豪雨の再現期間が考慮される例が多い。このうち,土層厚の回復は経時的な規則性を仮定し得るものと考えられる。本地域において,崩壊地が時間経過とともに崩壊発生以前の斜面と同程度の土層厚に回復するには,前節にて述べたようにおよそ100-250年程度の時間を要する。他方,1986年豪雨の再現期間は上記したように土層厚回復の時間幅を含むより広い期間となる。また,降雨イベントの雨量はその頻度に関しては確率的性質を有すると広く理解されているが,個別イベントの雨量は直前イベントのそれに制約されないことから,降雨強度の大小に関わらず、イベントの降水量とその発生順との間には規則性がないといえる。以上より,1度表層崩壊が発生した斜面が再度崩壊を引き起こすには,気候条件が大きく変化しない限り,経時的累積的に進行する土層厚の回復に大きく依存するといえ,本地域における同一斜面上での表層崩壊発生周期を想定するとすれば,土層厚の点で再崩壊の臨界値に到達したとみられる100-250年程度の時間オーダーに着目するのが妥当と考えらえる。
3. 表層崩壊の発生周期と土砂流の発生頻度の比較表層崩壊発生の誘因が豪雨であり,(小)流域内のある面積頻度で表層崩壊が同時発生するとき,しばしば土砂流・土石流が谷底を流下する。冒頭に述べたようにLi and Tamura (1999)は富谷丘陵2次小流域を対象に,土砂流発生頻度は300-400年程度であると論じたが,これに加えて伊藤・吉木 (2004)は,約23 haの3次流域内にて,約100年前以降,断続的に土砂流発生と流出が生じたことを述べている。
この両者の見解は,谷底下にみられる土砂流堆積物とこれに挟在する埋没腐植層の年代値から得られた結論であり,当該谷底の上流で発生しかつ掘削地点に到達し得た土砂流の年代間隔を明らかにしたものと捉えられる。主に表層崩壊の発生する下部谷壁斜面を2-3次以上の流域で見渡すと,過去様々な崩壊発生時期に応じた土層回復過程にある個別崩壊地とその集合体が存在していると考えられる。したがって、筆者らが言及した崩壊臨界状態までの土層回復時間(100-250年程度)は、特定の掘削地点の堆積物に記録される土砂流到達の時間的頻度と合致することは、論理的にあり得ない。これらのことから、小流域内スケールでの土砂流の発生周期と崩壊発生周期とを峻別する必要性のあることが指摘できる。
宮城県富谷丘陵の新第三紀堆積岩地域では,下部谷壁斜面における土層の回復時間は100-250年程度であると推定された。また1986年豪雨の再現周期は,過大外挿ではあるものの,最大24時間降雨量に限っても100-1000年以上と広範である。そのため,ある程度,経時的累積的変化が想定できる土層の回復時間が,崩壊の周期を考える上で有効な指標と考えられる。ただし,それは過去様々な崩壊発生時期に応じた土層回復過程にある個別崩壊地と,その集合体からなる流域から発生する土砂流の発生周期とは異なる。したがって,下部谷壁斜面上の同一地点が再び表層崩壊を発生させる周期を考えるのであれば,土層厚の回復時間である100-250年程度と捉えるのがより妥当と考えられる。
1986年における富谷丘陵の表層崩壊発生には,その3年前である1983年林野火災の影響が大きいと考えられることは,これまでの諸研究で指摘されているとおりである。この林野火災域外においても1986年崩壊は発生しているとはいえ,本研究では表層崩壊の時間頻度の検討に,火災の影響を組み込むことはできず,この点は今後の課題のひとつと考えられる。
本研究を行うにあたり,宮城県庁森林整備課,仙台地方振興事務所林業振興部,宮城県県民の森中央記念館,仙台市役所公園課の関係各位には,調査に関して便宜を図っていただいた。以上の方々に厚くお礼申し上げます。
なお本稿は,第一著者近藤が2019年に提出した東北大学理学部地理学教室卒業論文,および2019年東北地理学会春季大会での報告に,その後の調査検討と加筆修正を重ね,2021年東北地理学会秋季学術大会にて発表した内容に基づき作成された。
(2020年6月22日受付,2023年3月15日受理)
1) 崩壊物質が生産された後,谷底・流路に沿い水流とともに流域外に比較的高速に排出される場合,一般に土石流の物質移動形態をとることが少なくないが,富谷丘陵においては後述するような地質条件から,礫画分相当の粗大な物質を欠く土砂流の発生が,残存堆積物からも示される。
2) 気象庁ウェブサイトによる1991-2020年平年値である。https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/nml_sfc_ym.php?prec_no=34&block_no=47590 (最終閲覧日2023年2月27日)
3) 地表面付近は軟質であることも多く,1回の貫入深度が10 cmを大きく上回ることも少なくない。そのため,1回の貫入深度を基にNc値を算出した場合もある。
4) 本研究では土層厚と斜面傾斜の正接に対し,斜面安定解析式に基づいた非線形回帰も試みた。その結果,20-54°の区間範囲では1次関数にほぼ近似可能な回帰式が得られたため,以後の議論では線形回帰式に基づき議論を進めた。
5) 佐野 (1999)が記述する仙台管区気象台1日降雨量295 mmのデータについて,筆者らは追認しきれておらず,その由来は現在のところ不明である。