本稿では,奈良県の医薬品産業における企業の存立形態を明らかにした。当地域の医薬品産業は地場産業として成立した配置薬生産を起源とする。しかし,配置薬の生産は減少しており,それを専業で生産する企業は一部に限定されている。他方,配置薬だけでなく一般薬や医薬部外品,健康食品などを生産し,生産品目の多品目化を進める企業がみられるようになった。さらに,大手企業をはじめとする医薬品企業やドラッグストアからの受託生産を主軸とする企業も登場した。こうした企業は,当地域の医薬品産業の中では規模が大きく,医療用薬を主要生産品目とする点に特徴がある。このように,当地域の医薬品生産企業の存立形態には変化が認められる。そして,全医薬品の生産額に占める配置薬の割合が低下する一方で,生産品目の多品目化と受託生産が増加した結果,当地域の医薬品の生産額は2000年代半ば以降も増加傾向を示している。ただし,配置薬生産の減少は企業が奈良県に集積するメリットを低下させている。また,受託生産の拡大は生産額の増加に寄与するが,受託元企業による生産のグローバル化の推進や当産業をめぐる制度の変化などの影響を受けやすいものであるといえる。