Thermal Medicine
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分子シャペロン誘導剤は温度感受性変異p53の機能回復を促進する
川島 大介曽我 実竹内 理香松本 英樹大塚 健三
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2010 年 26 巻 1 号 p. 1-17

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抄録

腫瘍抑制遺伝子p53は転写因子をコードしており, ヒトの腫瘍では最も多く変異していることが知られている (約50%). この変異p53タンパク質の機能を回復することが一つのがん治療として考えられており, CP-31398, PRIMA-1やグリセロールといったいくつかの化学物質がその機能を回復することが示されている. 我々は本論文で, カルベノキソロン, ペオニフロリン, サリチル酸ナトリウムなどの分子シャペロン誘導剤が温度感受性変異p53タンパク質 (V143A) の機能を回復させることができるかどうかを検討した. p53の機能回復は, 活性型p53によって転写されるWAF1とMDM2の誘導により検出した. H1299/tsp53細胞を非許容温度である37°Cで培養するとWAF1とMDM2の発現は見られない. 温度を37°Cから許容温度である32°Cに移すと6-12時間当たりから徐々にWAF1とMDM2が蓄積してくるが, これはおそらく正常型p53が徐々に現れてきたからである. 37°Cで細胞を分子シャペロン誘導剤で処理しておいてから32°Cに温度を下げると, WAF1とMDM2の発現は3-6時間という早期に見られ, またその発現量もコントロールに比べて多くなった. 分子シャペロンの誘導をケルセチンやHSF1siRNAによって阻害すると, 誘導剤による促進効果は抑制された. また, 長時間 (48時間) にわたりカルベノキソロンによって分子シャペロンを高発現させると, 37°Cにも関わらず正常型p53が蓄積してきた. これらの結果は, 適度に高発現された分子シャペロンは変異p53タンパク質の正しい折りたたみと機能回復を促進することを示唆している.

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© 2010 日本ハイパーサーミア学会
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