Thermal Medicine
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細胞吸着性と発熱性を有するマグネタイト正電荷脂質複合粒子の培養液温度非依存的な殺細胞活性とその臨床応用法
森野 富夫高瀬 弘嗣惠谷 俊紀内木 拓河合 憲康井藤 彰安井 孝周
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2020 年 36 巻 1 号 p. 25-34

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抄録

ナノサイズのマグネタイト正電荷脂質複合粒子(magnetite cationic liposomes, MCL)を腫瘍内に局所投与した後,体外からの交番磁場照射により発熱を誘導し,腫瘍を退縮させる治療法が本邦で開発された.既に,臨床研究が実施され,施術フィジビリティ並びに有害事象に関する大きな阻害要因は見出されないことが報告された.しかしながら,腫瘍温度は等しく上昇したにも関わらず,その有効性は広範囲(完全退縮~ほとんど無効)に亘ったため,更なる有効性の向上を目的に,腫瘍体積当たりの発熱量(J/cm3)を新たな施術コントロール指標とする提案がなされた.本研究の目的は,MCL粒子の殺細胞活性をインビトロで検討し,その妥当性を論じることにある.

検討の結果,MCL粒子は,ポジティブなゼータ電位に依存して,ヒト前立腺癌細胞に吸着し,その飽和量は2 ng-MCL/cellであることが示された.更に,電子顕微鏡観察により,大多数のMCL粒子は細胞膜に局在することが確認された.一方,磁場照射によるMCL粒子の発熱活性は,比吸収率(J/g-MCL・min)で表記可能であり,各照射条件の磁束密度に応じて変動することが示された.MCL粒子が飽和吸着した細胞に対する殺細胞活性は,磁場照射により1.2×10-4(J/cell)の発熱量を誘導した条件で認められ,その際に細胞膜の障害に起因すると考えられる細胞形態の変化と細胞膜のバースト現象が観察された.注目すべきことに,本条件下において培養液の温度上昇は認められず,MCL粒子の殺細胞活性は,培養液温度とは無相関に細胞膜局所における発熱量(J/cell)に依存するものと考えられた.これらの結果は,臨床研究における測温指標の代替として,腫瘍体積当たりの発熱量(J/cm3)を施術コントロール指標とする先の提案を支持するものと考えられた.

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© © 2020, 日本ハイパーサーミア学会
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