日本ハイパーサーミア学会誌
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実験的全身温熱療法による生体と免疫への影響
浦川 豊彦奴久妻 美智子大塚 浩平川田 学柴崎 哲長谷川 貴史片本 宏
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2006 年 22 巻 1 号 p. 35-48

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抄録

我々は温水浸漬法によるハイパーサーミアのために新たに高精度温浴装置 (0.1℃単位で設定, 温度誤差±0.05℃) を開発した. より正確な温度の温水を使い直腸温を間接的にコントロールすることで, 全身麻酔下のイヌとネコの実験的な一回の全身加温を行った. まず高温による傷害を調べた. 41.0℃から0.5℃刻みで43.0℃まで2時間の加温実験を行った. 傷害はイヌとネコとも42.5℃から出はじめ, 43.0℃では極めて重篤な症候を呈し懸命な治療にもかかわらず死亡例が出た. 特有な臭いの粘液便, 血便, 肝酵素値の異常上昇, 各種臓器での出血である. 特に今までに報告の無い顆粒球の変性・壊死像が加温最中から顕著に増加し, 加温後3日目に正常に戻った. この急激な顆粒球の崩壊による全身での活性酸素やエラスターゼなどの放出と腸管バリアーの破壊が傷害発生の機序の一つになっている可能性が示唆された. 加えて高温によるHSPsの分解も42.5℃から検出され, 今回HSP90とHSP70 (Hsc73) の分解が加温後1~3日目まで確認された. そこで生体への侵襲性と安全性に考慮し, 至適加温温度を直腸温41.5℃として加温し免疫に与える影響を調べた. 加温群 (41.5℃で2時間維持, 合計3.5時間), 平熱領域加温群 (38.3~39.3℃で3.5時間維持), それに対照群として全身麻酔だけを施した非加温群 (3.5時間) の3グループとした実験を行った. 平熱加温群では2週目には顆粒球数が20%程度減少し, リンパ球数は加温直後から上昇をはじめ2週目では2倍以上に上昇し, 4週間程度で元のレベルに戻った. 直腸温41.5℃2時間加温群では, 加温直後に一過性のリンパ球減少と3日目に顆粒球数の一過性の上昇が見られたものの, 2週間目でリンパ球数が2倍弱上昇した. 加温後2週目のCD4, CD8陽性リンパ球数も著明に増加した. HSP70 (Hsp72) の発現量は41.5℃加温群で加温中と加温後3日目の二峰性の上昇を示す個体が存在したが, 対照群と平熱加温群では変化しなかった. PHAを使った遅延性過敏症皮内試験では3日と7日目に接種, その後24時間目と48時間目の判定で, いずれも41.5℃加温群が最も高い値を示し, 次は平熱加温群であった. ネコの場合もイヌとほぼ同様の結果を得た. これらの正確な加温による動物実験の結果から, 直腸温41.5℃の加温はもちろん平熱レベルで数時間の加温でも十分免疫を高めることが分かった. 反対に, わずか数時間の実験的な2~3℃の低体温は顆粒球増多とその後2週間にわたる免疫低下を来たすことが明らかになった.

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© 2006 日本ハイパーサーミア学会
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