日本ハイパーサーミア学会誌
Online ISSN : 1881-9516
Print ISSN : 0911-2529
ISSN-L : 0911-2529
Heat shock反応の細胞生物学 : heat shock proteinsの誘導機構とその役割
畑山 巧加納 永一行岡 宗彦
著者情報
ジャーナル フリー

1985 年 1 巻 4 号 p. 115-129

詳細
抄録

heatshock(以下HSと略す)反応とは生物の体温が至適温度から数度上昇した時細胞においてみられる反応であり,一般に著明な一群のたんぱくの誘導,合成がおこる.特長的なことは,このHS反応は,細菌,酵母,粘菌,植物,昆虫,鳥類,哺乳類などあらゆる生物に共通して認められることである.また,この時産生される数種類のheat shock proteins(以下hspsと略す)のうち分子量60,000~70,000と80,000~90,000の2種の主なhspsは生物種や進化を通して,その構造が保存されている.さらにこのHS反応は,単にHSによってのみならず,アミノ酸アナグロ遷移金属・酸化剤・毒物などへの暴露や,無酸素状態からの回復,ウイルス感染,組織傷害などによっても同様の細胞の反応が認められる.これらのことから,このHS反応は種々のストレスから細胞を守るための基本的かつ原始的な反応であることが示唆される.
HS反応は,1962年にRitossaによって,Drosophila(ショウジョウバエ)の唾線染色体にHSによりパフが誘導されていることを見い出されて以来,主としてDrosophilaを中心として研究がなされてきた.しかし,この数年来これらのHS反応が他の生物種においても共通して認められることが明らかとなり,種々の生物種において研究がなされてきている.一般にHSに反応して細胞において大きく2つのことがおこる.第一は今まで合成されていた正常のmRNAおよびたんぱくの合成の抑制であり,第二はHSにより誘導された新しいmRNAsの合成とそのたんぱく群(hsps)の特異的な合成である.これらの反応を理解するためには,何がこれらの反応を誘導するのか,また何が上述の2つのeventを制御するのか,またこのようにして産生されたheat shock protein(以下hspと略す)はどのような細胞機能をもつのかなどいろいろな問題が解明されねばならない.
ここでは現在まで明らかにされてきたHS反応機構およびhspの生物学的役割などについて概説する.

著者関連情報
© 日本ハイパーサーミア学会
次の記事
feedback
Top