抄録
【はじめに】認知症は,自己身体能力の認識や,危険を避ける判断能力が低下するなど転倒リスクを増大させるといわれている.転倒に関する調査では, 躓きの回数と転倒との関係が高いと報告されている.臨床において,認知症患者の行動に一貫性の欠如が認められる例も多い印象がある.このことから,今回我々は,動作の一貫性と危険行動の出現率に注目し,認知症の重症度による移乗時の危険回避行動について検討を行ったので報告する.【対象】対象は重度群13名(平均年齢87.5歳,平均HDS-R 6.1),中等度群8名(年齢85.0歳,HDS-R13.8),軽度群8名(年齢89.3歳,HDS-R19.4)で言語指示に従え,つかまり立ちが可能,移乗は軽介助レベル以上の者とした.尚,本人または家族に本研究の趣旨を説明し同意を得た.【方法】プラットホームから2m離れた車イス座位を開始位置とし,安全にベッドに移るように指示し,動作を観察した.危険回避能力はa)安全な距離までの車イス移動,b)フットプレート操作,c)ブレーキ操作,の3項目を可否の二件法にて評価した.1日3回3日間,計9回における否の数から危険行動の出現率(%)を算出した.データ解析は1)動作の一貫性について項目毎にKappa係数を算出した.2) HDS-Rと危険行動の出現率の相関についてスピアマン順位相関係数検定を,3) 危険行動の出現率の重症度による差異について一元配置分散分析を行った.いずれも有意水準5%未満とした.実験終了後,各動作が指示にて可能であることを確認した.【結果】1)動作の一貫性について,移動/プレート/ブレーキの順に重度群0.85/0.43/0.75,中等度群0.45/0.54/0.53,軽度群0.75/0.59/0.78であった.2) HDS-Rと危険行動の出現率との相関は,全体r=-0.549(P<0.01),移動r=-0.254(n.s),プレートr=-0.484(P<0.05),ブレーキr=-0.503(P<0.05)であった. 3) 危険行動の出現率は,重度群/中等度群/軽度群の順に,全体:43.3/35.6/12.5(n.s), 移動:32.5/29.2/12.5(n.s),プレート:43.6/41.7/8.3(n.s),ブレーキ:53.8/36.1/16.7(n.s)であった.【考察】一貫性は動作パターンの不安定性を示し,その評価には観察点と回数を多く取る必要がある.今回,9試行を観察し,動作の一貫性は項目・重症度により異なっていた.重度群は,危険行動が多く一貫性が比較的高かったが,中等度群では一貫性が低く,観察点や回数を増やすことが重要と考えられた.危険行動の出現率は,ブレーキがHDS-Rと最も相関が高かった.ブレーキは視覚で確認がしにくく,記憶や気づきなど認知機能が重要であることが示唆された.