東海北陸理学療法学術大会誌
第24回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: O035
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右舟状骨骨折後に右母指に疼痛と痺れが出現した剣道選手の治療経験
*岡西 尚人山本 昌樹
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キーワード: 舟状骨骨折, 痺れ, 把持動作
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抄録

【はじめに】 手指に痺れや疼痛が出現する疾患には、頚椎症性神経根症、胸郭出口症候群、円回内筋症候群、肘部管症候群、手根管症候群などが挙げられる。症状としては類似していても病態が異なるため、的確な評価のもと治療されなければ症状の改善は得られにくい。今回、右舟状骨骨折後に剣道に復帰したが、練習後に右母指に疼痛と痺れが出現した剣道選手の治療を行った。手関節掌背屈、橈尺屈、前腕回内外に制限は認めなかったが、把持動作では第4・5CM関節の屈曲制限を認め、握力は健側の約40%であった。第4・5CM関節の可動域訓練と第4・5深指屈筋の収縮訓練を行い、症状の消失を認めた。本症例の病態を解剖学的・運動学的見地から考察する。 【症例紹介】 症例は剣道部に所属する中学3年の女子であった。診断名は胸郭出口症候群であった。平成19年12月に転倒し右舟状骨骨折を受傷した。保存的に加療されて、その後剣道に復帰したが、練習後に右母指に疼痛と痺れが出現するようになった。症状の緩解得られず当院受診し、右舟状骨骨折から約半年後に理学療法開始となった。 【初診時理学所見】 右母指の掌側面に疼痛と痺れを訴え、Eaton test肢位やWright test肢位にて症状の増悪を認めた。手関節や前腕に可動域制限は認めなかったが、把持動作では左側と比較し第4・5CM関節の屈曲制限を認めた。握力は右11kg、左26kgで、第4・5深指屈筋に筋力低下を認めた。竹刀の握り方は、第1・2指を優位に使う形であった。 【考察】 第4・5CM関節の屈曲制限を除去し、第4・5深指屈筋の反復収縮訓練を行った。その直後に母指の疼痛と痺れは消失し、Eaton test肢位やWright test肢位でも疼痛と痺れは出現しなかった。深指屈筋の筋力強化と竹刀の握り方を第4・5指を使うよう指導した。1週間後の来院時には症状の再現は認めず、握力は右22kgに回復しており、理学療法を終了した。 【考察】 医師の診断は胸郭出口症候群で、実際Eaton test肢位やWright test肢位で症状が増悪していたが、症状の出現は舟状骨骨折後であったため、手関節周辺の理学所見の抽出を詳細に行った。握力の低下、第4・5CM関節の屈曲制限を認めた。竹刀の握り方は第1・2指を優位に使っていた。橈骨動脈は橈骨茎状突起より遠位で掌側と背側に分岐する。背側へ回った動脈は第1CM関節の遠位で第一背側骨間筋の間を貫通し掌側へ走行している。把持動作の中で第4・5指を十分に使えず、第1指側を優位に使用した結果、第一背側骨間筋が過剰に収縮し、母指掌側へ向かう橈骨動脈が絞扼され血管由来の症状が出現していたと思われた。

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