抄録
【はじめに】
片麻痺患者の車椅子―ベッド間の移乗動作を自立させるためには,一般的に指導される非麻痺側方向への移乗動作に加え,麻痺側方向への移乗動作も重要となる.そこで今回,車椅子―ベッド間における麻痺側方向への移乗動作能力に影響する要因を検討すべく,バランス能力(調査1)および立位での麻痺側下肢への最大荷重率(調査2)との関連について調査した.さらに移乗動作能力と歩行能力との関係(調査3)についても調査したので報告する.
【対象および方法】
調査1の対象は,当院入院中の片麻痺患者で移動手段として主に車椅子を使用している18例(男9例・女9例,平均年齢76歳)である.ベッドから車椅子(麻痺側方向)への移乗動作が自立している9例を自立群,介助または監視を要する9例を介助群とした.対象者のBerg Balance Scale(以下,BBS),Functional Reach(以下,FR),座位での前方へのリーチ距離,および下肢のBrunnstrom Recovery Stage(以下,BRS)を測定し,両群を比較検討した.
調査2の対象は,調査1の対象の中で移乗動作と立位保持が自立または監視で可能な10例(男6例・女4例,平均年齢73歳)とした.方法は車椅子―ベッド間の移乗動作を往復で行わせ,車椅子からベッド(非麻痺側方向)と麻痺側方向の移乗動作の所要時間(以下,移乗時間)を計測した.また,麻痺側最大荷重率として,体重計を用い立位にて麻痺側下肢への最大荷重率(体重を100%とする)を計測し,非麻痺側および麻痺側への移乗時間との関連を検討した.
調査3の対象は,調査1の対象の中で移乗動作と10m歩行が自立または監視で可能な10例(男7例・女3例,平均年齢74歳)とした.10m歩行時間と調査2の移乗時間との関連を検討した.
【結果および考察】
調査1の結果より自立群と介助群間においてBBS値(自立群/介助群:37.0±11.2点/10.4±6.6点),FR値(16.7±6.9cm/2.1±6.2cm),BRS(3-3例,4-4例,6-2例/2-5例,3-2例,4-2例)に有意な差が認められ,麻痺側方向への移乗動作能力に影響する要因は,主に立位でのバランス能力と下肢の運動機能であった.調査2の結果より麻痺側最大荷重率は移乗時間と有意な相関(非麻痺側:r=-0.64,P<0.05/麻痺側:r=-0.77,P<0.01)を認め,特に麻痺側方向への移乗動作能力との関連がより強かった.調査3の結果より10m歩行時間は移乗時間と有意な相関(非麻痺側:r=0.69/麻痺側:r=0.73,共にP<0.05)を認め,特に麻痺側方向への移乗動作能力との関連がより強かった.
これらのことから,麻痺側方向への移乗動作能力には立位バランスや麻痺側下肢の支持性が関与していると考えられる.麻痺側方向への移乗動作は,立位で麻痺側下肢へ荷重をかけながら方向転換する要素が含まれている.したがって麻痺側方向への移乗動作練習は,麻痺側下肢への荷重を促通し,ひいては歩行能力の向上につながり,病棟における練習としての可能性が示唆された.