2012 年 68 巻 7 号 p. III_611-III_616
河川水生昆虫モンカゲロウ(Ephemera strigata)を対象生物として,河川内に見られる瀬,淵,ワンド等のハビタット間の環境異質性が,適応放散で形成される遺伝的多様性に与える影響を評価した.宮城県名取川水系の11地点の7区分のハビタットから採取した220個体をAFLP法で319遺伝子座をジェノタイピングし,その中から9の環境選択遺伝子座を遺伝シミュレーションで検索した.また,調査地点のハビタット地形形状を高精度GPSのProMark3を用いてマッピングした.9つの環境選択遺伝子座とハビタットの関係を解析した結果,2つの環境選択遺伝子座の対立遺伝子頻度と遺伝的多様性が地点内の止水性ハビタット(ワンド,タマリ,トロ)の面積割合と正の相関を示し,これら遺伝子座とハビタット構造の連関が推定された.この結果は,河川内において止水性ハビタットを保全する河川管理が,水生生物の遺伝的多様性の保全に繋がることを示唆している.