東海北陸理学療法学術大会誌
第24回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P042
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大腿神経麻痺の理学療法を経験して
*木村 優一宮腰 弘之高島 市郎松並 由夏志村 美香坪田 謙池上 勲木村 知行柴田 克之
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抄録

【はじめに】
大腿神経の損傷例は全末梢神経麻痺の1%前後とされ,治療報告も少ない.今回,左大腿神経麻痺による歩行能力低下を認めた症例の理学療法を実施したので報告する.
【症例紹介】
症例は40歳代女性.現病歴は平成19年8月下旬,A病院にて子宮体癌に対し,準広汎子宮全摘術を施行.術直後より左大腿前内側の異常知覚,左下肢筋力の低下を認め,左大腿神経麻痺(Seddonの分類ではneurapraxia)と診断.術後第14病日より16日間理学療法(歩行練習や筋力増強運動)実施し,A病院を退院.平成19年9月27日より当院外来にて理学療法開始となる.職業は薬局販売員(自営).ニードは家事や配送業ができるようになりたい,である.
【初期評価】
感覚検査では左大腿前内側に軽度の異常知覚あり.MMTは左腸腰筋・縫工筋4レベル,左大腿四頭筋2レベル(徒手筋力計で算出した健側・患側の筋力比19.4%,以下,健患比),その他の筋群は正常.左膝関節にextension lag -10度認めた.歩行能力は屋内独歩,外出時は杖歩行にて可能.また,歩容では左側の立脚期における二重膝作用を認めなかった.階段昇降は手すりを使用し,二足一段で可能.ADLはFunctional Independence Measure(以下,FIM)124点(歩行や階段で減点)であるが,浴槽清掃などの家事動作や商品配達が独力では困難であり,家族が援助していた.
【治療プログラム・経過】
週4回の通院では,筋疲労に留意しながらクアドセッティングや固定自転車のペダリング,スクワット,階段昇降練習に加えて,徒手的抵抗運動を実施.また,家庭内では主にclosed kinetic chainによる運動を取り入れた.当院理学療法開始4週目でも著明な歩容の改善は認めないため,歩行をビデオ画像で確認するフィードバック療法を追加.開始9週頃にはextension lagは消失し,歩容もほぼ正常化したため,フィードバック療法を終了した.独歩や階段昇降も自立(FIM126点)し,職業復帰に至った.開始16週目で左大腿四頭筋筋力はMMTで5レベル(健患比89.4%)となり,理学療法を終了した.
【考察】
大腿神経麻痺の予後は損傷の程度により異なるが,いずれの文献でもADL上の障害は軽度とされ,neurapraxiaでは7例中,全例筋力の回復が報告されている.大腿神経麻痺に対する理学療法には,麻痺筋の筋力強化,代償筋の筋力増強,麻痺回復時期の低周波療法,拘縮の予防等があげられる.本症例では峰久らが提唱している筋力増強運動を左下肢代表筋(特に大腿四頭筋)に対し実施した.また,口頭指示では理解しにくい二重膝作用の様相をビデオ画像で視覚的にフィードバックを導入し,運動学習の強化を促した.これは原田らの身体部位間協調運動パターンを,口頭指示にビデオ,姿勢鏡,示範を併用する方法論を臨床応用したものである.視覚的フィードバックとの併用により,歩容の改善に加え,社会復帰につながった有効な治療手段であることが示唆された.

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© 2008 東海北陸理学療法学術大会
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