東海北陸理学療法学術大会誌
第24回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P043
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肩甲上腕関節最大屈曲位における棘上筋線維について
*橘田 正人柘植 英明浅本 憲中野 隆
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抄録

【はじめに】肩甲上腕関節の屈曲制限因子として,腱板の短縮,腱板疎部の癒着,肩峰下における滑動性の低下,疼痛などがあげられる.これらの因子のうち腱板に注目した報告は散見されるが,その多くは回旋についてのものであり,屈曲最終域における腱板に関する報告は少ない.
 今回,愛知医科大学医学部解剖セミナーに参加し,解剖実習遺体を用いて肩関節部の解剖を行い,肩甲上腕関節の屈曲最終域における棘上筋について観察し,屈曲制限との関連を考察する機会を得たので報告する.
【対象】愛知医科大学医学部解剖セミナーに供された遺体1体(女性,81歳)の右肩関節部を対象とした.
【方法】背臥位で胸部から肩にかけて皮膚を剥離し,大胸筋・小胸筋・三角筋を切断除去して関節包を剖出した.次いで,腹臥位で背部の皮膚を剥離し,肩甲骨・鎖骨・上腕骨を温存した状態で上肢帯を体幹より切離した.上腕骨は,遠位部で切断した.腱板を露出後,肩甲下筋・棘下筋・小円筋を切断除去し,関節包を剖出した.滑液包を除去し,棘上筋を肉眼で観察可能な状態とし,前額面に対し30度の角度をつけて肩甲骨を万力に固定した.この状態で,上腕骨を他動的に屈曲方向へ運動させ,棘上筋線維の走行について肉眼的に観察した.
【結果】肩甲骨を万力に固定した状態で上腕骨を他動的に屈曲した際,肩甲上腕関節の最大屈曲角度は80度であった.屈曲に伴って上腕骨が肩峰に接触したため,80度以上の屈曲はできなかった.上腕骨下垂位から最大屈曲位までの他動的な屈曲運動を肩甲骨背側面より観察した結果,屈曲に伴い上腕骨頭は後方に回旋し,関節包の上部が伸張されて捻れた.この際,関節包上部の伸張とともに,上腕骨頭の上部を覆っている棘上筋線維遠位部は後外下方へ伸張される様子が観察された.
【考察】肩関節の拘縮を呈する症例において,最大屈曲位における肩峰の下後方の疼痛は,良く経験する愁訴である.疼痛の原因として腱板炎,肩峰下滑液包炎,肩峰下における滑動性の低下などが考えられるが,これらを鑑別することは困難である.しかしながら,最大屈曲位で肩峰下後方の軟部組織に対して圧迫・伸張・マッサージなどを加えると疼痛が軽減することは良く経験される.
 今回,最大屈曲位において,関節包の上部の伸張とともに,上腕骨頭の上部を覆う棘上筋線維遠位部が後外下方へ伸張されることを確認した.このことより,最大屈曲位における肩峰下後方の疼痛の原因として,関節包の上部と棘上筋線維遠位部が関与していると考えられ,運動療法を実施するにあたりアプローチすべき部位として重要であることが示唆された.

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© 2008 東海北陸理学療法学術大会
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