抄録
【はじめに】
変形性関節症は様々な関節にみられるが,非荷重関節である肩関節では比較的稀である.今回,強い疼痛と運動制限を呈した変形性肩関節症(以下肩OA)患者に対する理学療法(以下PT)を経験し,良好な結果を得たので報告する.
【症例紹介】
63歳女性,主婦,右利き.昭和63年にスキー中の転倒で右肩を打撲して以来,右肩に疼痛と運動制限が出現.その後,多数の医療機関を受診したが,症状の改善は得られず,「動かさないと益々動かなくなる」という思いから,日常生活や趣味活動において自主的に右手の使用頻度を高める生活を続けていた.平成18年に左第1中手骨骨折を受傷後,症状が更に増悪.平成19年2月に前医にて肩OAと診断,人工関節置換術の適応を指摘され,同年5月に紹介にされ当院受診となった.画像所見で高度な関節症変化を認めた.治療方針は,2ヶ月程PTを施行し,効果がみられなければ手術予定であった.
【初診時PT評価】
安静時姿勢は頭部前方突出位,胸椎後弯増強,右肩肩甲骨挙上・前方突出位,上肢は体幹に固定した疼痛回避姿勢であった.疼痛は安静時痛が肩前方,運動時痛が肩前方・肩峰下にあり,夜間痛で目を覚ますことが頻回であった.筋緊張は右上肢他動運動時の抵抗感が著明であった.筋のこわばりは頚部周辺筋群,右肩甲帯周囲筋から体幹筋にかけてみられた.肩甲骨可動性は,自他動ともに低下していた.肩関節可動域は自動屈曲80°,外転40°,外旋-5°,背面内旋は臀部であった.ADLは上肢挙上位で行う動作(洗顔・整髪・洗髪・洗濯物を干す),背面内旋を伴う動作(背部洗体・下衣更衣),筋力が要求される動作(硬いものを切る・拭き掃除・布団の上げ下げ)などが困難であった.これら困難な動作で,苦痛を伴いながら右手を積極的に使用していた.趣味活動は多彩で絵画教室,畑仕事,アクアビクスなどを行っていた.JOA scoreは33/100点であった.
【治療および経過】
筋由来の疼痛を緩和させるために頚部・肩甲帯・体幹筋リラクセーションと就寝時のポジショニングを含めたADL指導・自宅環境内調整および趣味活動に対する作業時の姿勢・動作指導,作業の内容・量と作業環境の調整を行った.開始後約2ヶ月から,肩周囲の疼痛や筋のこわばりの軽減,上肢帯筋緊張の正常化,肩甲骨可動性の向上がみられた.それに伴い,肩関節および肩甲帯機能改善を目的としたアプローチを追加した.約3ヶ月後には,疼痛回避姿勢,安静時痛および夜間痛は消失した.肩関節可動域は自動屈曲110°,外転100°,外旋-5°,背面内旋はTh12と改善した.困難であったADLは苦痛を伴うことなく遂行可能となった.JOA scoreは68/100点となり,手術は回避された.
【考察】
本症例において症状の緩解とADLの改善が得られた要因は,日常生活や趣味活動における誤った認識に対する指導や,肩関節をはじめ頚部から体幹に及ぶ機能に対するアプローチを,病期や病態に応じて選択したことが功を奏したためと考えられた.