東海北陸理学療法学術大会誌
第24回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P072
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急性期頚髄損傷患者に対する呼吸理学療法の経験
1日2回、2人同時介入により肺合併症を予防し得た一症例
*背戸 佑介向井 庸山本 敦也金原 悠人
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抄録

【はじめに】  頚髄損傷急性期には肺合併症の併発率は高く、われわれも臨床において多々経験する。  分泌物排出障害を来した急性期頚髄損傷患者に対して、医師の監視下、慎重な体位変換とPT2名での排痰訓練の介入により、無気肺・肺炎など肺合併症を予防し得た1症例について報告する。 【症例】  80歳代男性、身長168_cm_、体重58kg、BMI20.5。交通事故により第4頸髄残存の頸髄損傷受傷。呼吸筋麻痺を呈し、即日人工呼吸器管理となった。受傷4病日より肺合併症予防目的での理学療法が処方された。 【理学療法初期評価(4病日)】  呼吸条件はTピースでの高流量式酸素ネブライザー8L/分(夜間は鎮静下人工呼吸器管:SIMV+PS)。動脈血液ガス分析でPaO2 86.2torr PaCO2 39.2torr 。呼吸回数24回/分で頸部呼吸補助筋の過剰収縮を伴うシーソー様呼吸を呈し、強い呼吸苦を訴えていた。聴診では両下肺野の呼吸音が著明に減弱していた。腹筋群の収縮は見られず随意咳嗽は不可能であった。痰は非常に多く粘調であった。 【介入方法】  介入時間は本人の苦痛を避けるため、呼吸筋疲労の少ない午前中と呼吸器管理となる夕方以降の2回とした。体位ドレナージは医師監視の下、左右完全側臥位まで慎重に行い、PT2人が呼気に合わせた胸郭圧迫と腹部圧迫を同時に行う事で排痰を促した。一回換気量はPEEP2cmH2O PS8cmH2Oの条件下であるが1人介入では最大530mlであったのに対し、2人介入による介助を加えると600ml以上の値を得る事が出来ていた。また両下肺野の呼吸音に改善を認め、rattlingが触知できる等気道内分泌物の移動を示唆する所見が得られた。 【経過】  8病日頃より徐々に胸郭周囲筋に痙性を認め、11病日には抜管、15病日には不十分ながらも咳嗽に伴う腹筋収縮が認められた。24病日には室内気での管理が可能となっており、シーソー様の異常呼吸は消失し、安静時の呼吸苦も改善していた。軟性コルセット(腹帯)で腹圧を介助することにより効果的な随意咳嗽が可能となり、口腔・鼻腔までの気道内分泌物の移動が可能となった。経過の中でX線画像上、無気肺・肺炎等の肺合併症の併発は無かった。 【考察】  頚髄損傷急性期には気道内分泌物産生の亢進や呼吸筋麻痺に伴う1回換気量低下・安静に伴う体位変換の制限等から分泌物排出障害が生じる。本症例も急性期に多量の分泌物貯留がみられており、肺合併症を併発する危険性は高い状態であった。  本症例は、介入後より徐々に筋痙性の回復や腹筋収縮が認められ、効果的な咳嗽が可能となったが、それまでの期間、医師の監視下で慎重に体位変換を行い下側肺のドレナージ効果が得られた事や、PT2名で用手排痰手技を2回/日施行し排痰効果を促進した事も肺合併症予防の一助になったと考える。

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© 2008 東海北陸理学療法学術大会
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