東海北陸理学療法学術大会誌
第24回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P071
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感染性心内膜炎に起因する多発性脳出血を併発した開心術後例にたいする運動療法の経験
*山下 豊堀場 充哉田中 照洋水谷 潤和田 郁雄鈴木 章古
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抄録

【はじめに】
 感染性心内膜炎は全身の血管に血栓やそれにともなう血管壊死を形成する可能性があり同部位の梗塞や出血性の病変を合併しやすい。今回、感染性心内膜炎に起因する多発性脳出血を併発した後に開心術が行われた症例にたいする術後運動療法を経験した。ハイリスク例であったが新たなイベントを発生させることなく運動療法が可能であったことを報告したい。
【症例】
 49歳・男性、感染性心内膜炎、僧帽弁逸脱症、脳出血(右後頭葉・右小脳・右放線冠)、開心術後(僧帽弁置換術)。海外より帰国後に熱発、A病院受診、感染による進行性糸球体腎炎、血小板減少症にて当院紹介により入院。血液培養よりStreptcoccus sanguiniusを検出、心エコーにて僧帽弁に疣贅所見を認め感染性心内膜炎を指摘。感染および心不全のコントロール後に僧帽弁置換術が検討されたが、待機中に多発性の脳出血、出血後水頭症に対するV-Pシャント術実施などにより延期され、発症より2ヵ月後に開心術施行となった。術後10病日よりベッドサイドでの離床訓練を開始し、16病日よりPT室における運動療法を開始した。当時、意識清明、会話良好、見当識良好、高次脳機能障害なし、視覚障害なし、四肢に明らかな運動失調や麻痺なし、体幹失調を軽度認め監視歩行レベルの状態であった。21病日より自転車エルゴメータをプログラムに追加。安静時の血圧および心拍数(脈拍)はそれぞれ110/77・90程度で安定しており、自転車エルゴメータ駆動時の血圧および心拍数(脈拍)はそれぞれ119/77・107程度で大きな変化を認めず、ECG上ときに多形性のVPCを認めたが運動療法を阻害するほどの頻発を認めなかった。投薬はワーファリン、ロサルタン、カルベジロール、ジゴキシンなどであった。術後39病日にほぼ無症状で自宅へ退院された。
【考察】
 感染性心内膜炎では塞栓子が脳動脈へ流れていくことで脳梗塞を生じたり、塞栓部での血管壊死や動脈瘤形成から脳出血あるいはくも膜下出血を引き起こす。その頻度は20~40%と報告されており、本症例でも多発性脳出血を併発していた。当初は脳血管障害に対する運動療法が必要と考えられたが、脳画像に比し運動器症状の驚異的な改善を認め、有酸素運動が導入できる状態になった。離床開始後より安静時心拍数は増加傾向を示したが、運動時の心拍数、血圧は投薬によりコントロールされ著しい変化を認めなかった。またECGにて多形成VPC(Lown分類3)、VPC2連発(同分類4a)の不整脈を認め一時的な休止をとったものの退院まで運動療法を概ね完遂することができた。したがって感染性心内膜炎による血管合併症ハイリスク例ではあったが、血圧が適切にコントロールされ且つ心房細動などの心内血栓を生じうる不整脈が出現しなかったことにより運動療法が施行できたものと考えられた。

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© 2008 東海北陸理学療法学術大会
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