東海北陸理学療法学術大会誌
第24回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P078
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肢位の変化による咳嗽能力の比較
*魚住 和代竹田 幸恵島田 亜由美萩原 有花松村 純橋本 茂樹小川 晴彦
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キーワード: 肢位, Peak cough flow, 再現性
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抄録

【はじめに】高位頚髄損傷者では呼出力が減少し、咳嗽による気道分泌物の喀出が困難となる。喀出困難による喀痰の滞留は無気肺や感染症の増悪など呼吸状態を悪化させやすいため、その予防に咳嗽能力は重要な要素と考えられる。咳嗽能力の指標の一つである最大呼気流速(Peak cough flow:PCF)は、肢位の変化によって影響を受け、PCF値は横隔膜の抵抗が小さい端座位でもっとも高く、半座位、背臥位の順に低下することが知られている。頚髄損傷者では安定した肢位が背臥位あるいは車椅子座位であり、それらの限られた肢位の中で咳嗽能力を比較した報告は少ない。今回我々は、健常者を対象にPCFの再現性及び、肢位の変化によるPCF値を比較検討したので報告する。
【対象】健常成人22名(男性4名、女性18名、平均年齢26.2±3.6歳)を対象とした。
【方法】PCFの測定は、フジ・レスピロニクス社製アセスピークフローメーターにフェイスマスクを接続したものを用いた。測定肢位は、背臥位(股・膝伸展位と股15°・膝30°屈曲位)、半座位45°(股45°屈曲・膝伸展位と股60°・膝30°屈曲位)、椅座位の5肢位とした。被験者に測定器具を保持させ、背部を密着したまま最大吸気位から努力性に最大の咳嗽を行わせた。各肢位で3回ずつ測定し、その最高値をPCF値とした。再現性を検討するため、1回目のPCF測定後、後日2回目のPCFを測定した。統計学的手法には、各肢位ごとのPCF測定の再現性は級内相関係数(ICC)、対応のあるt検定を、また5肢位間における咳嗽能力の比較は一元配置分散分析を用いた。尚、有意水準は5%未満とした。
【結果】各肢位ごとのPCF測定値のICCは、それぞれ0.7以上と高い信頼性が得られた。また、1回目と2回目の測定値の間に有意差を認めなかった。5肢位間におけるPCF測定値では、各肢位とも平均で440.0±94.1L/min~478.2±116.8L/minであり、肢位間において有意差は認められなかった。
【考察】今回の研究では、PCF値は肢位の変化によっても有意差を認めず、先行研究とは異なる結果となった。このことは、PCFを測定する際に横隔膜呼吸を指示しなかったために、上部胸郭を拡張させた吸気パターンを生じたことや、設定した姿勢あるいは下肢の屈曲角度が不十分であったことなどが、肢位の変化による横隔膜運動の影響を受けにくい要因となったためと考えられた。PCFの測定は高い再現性を示し、臨床場面での有用性が示唆された。今後は呼吸機能が低下している患者に対し、咳嗽能力を向上させる呼吸様式や肢位の検討を行う必要があると思われた。

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© 2008 東海北陸理学療法学術大会
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