東海北陸理学療法学術大会誌
第24回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P080
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悪性リンパ腫脊椎転移により両下肢不全麻痺を呈した一症例
自宅復帰への関わり
*平野 絢美新屋 順子土屋 忠大小林 理恵内藤 健介佐竹 宏太郎中山 禎司
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抄録

【はじめに】
悪性腫瘍といえども病状が安定すれば自宅退院をすることが一般的である.しかし,治療中に廃用をはじめ身体障害をきたし自宅退院が困難となる症例も少なくない.今回,悪性リンパ腫脊椎転移により両下肢不全麻痺を呈したものの,自宅退院へ移行できた症例を通じ,理学療法(以下PT)が自宅復帰に向けて介入した意義を検討し,報告する.
【症例提示】
症例:47歳女性.診断名:悪性リンパ腫,肋骨,脊椎転移.家族背景:夫と2人暮らし.NEED:歩行の獲得,自宅復帰.現病歴:突然,両下肢麻痺,排尿障害が出現し,当院整形外科へ緊急入院となった.CT,MRIにてTh5~8の椎体左側に広がる腫瘍を認め,その腫瘍の一部が脊柱管内に浸潤し,脊髄を圧迫していた.治療経過:CT,MRI上,転移性腫瘍の可能性が高いと考えられ,緊急放射線照射とステロイド投与を行った.生検の結果より悪性リンパ腫(病期:stage_IV_)と診断され,入院8病日より化学療法を施行した.治療後,脊椎腫瘍はCT,MRI上消失し,悪性リンパ腫は寛解に至った.
【理学療法経過】
6病日よりベッド上にてPTを開始した.初期評価:筋力(MMT):両上肢5 両下肢4,表在感覚:中等度鈍麻,深部感覚:重度鈍麻.33病日より端坐位,移乗動作を順次すすめた.39病日よりPT室にて訓練を開始した.治療終了後の在宅復帰の手段を考え,実用歩行の早期獲得は困難であると判断し,車椅子ADLの獲得をゴールとした.61病日移乗動作が自立し,89病日トイレ動作が自立した.両ロフストランド杖による歩行訓練も行ったが実用には至らず174病日自宅退院となった.
【自宅復帰への関わり】
住居がアパートの2階であり,居室への階段の移動は上肢のpush up動作と,下肢の残存機能により臀部を挙上して昇降することとした.また,車椅子のレンタル,住宅改修を行うために,介護保険を申請したが特定疾患に該当せず,全額自己負担を余儀なくされた.車椅子は主介護者の夫の要望を受け,屋内用,屋外用の2台をレンタルした.退院後は本人の歩行獲得への希望から外来リハを継続することとした.
【考察】
悪性腫瘍による脊椎転移患者のPTの実施,目標設定にあたっては,生命予後の把握が重要となる.今回,悪性リンパ腫は寛解に至ったが,病期はstage_IV_であり,機能回復に重点をおいた長期入院よりも早期自宅復帰が優先であると考えた.そこで,社会的資源を活用し,車椅子での自宅復帰が現実的と考えた.社会的資源として介護保険の申請を行ったが,若年者における在宅支援の困難さを認識した結果となった.また,歩行獲得に向けた機能訓練は,化学療法と並行しての入院中PTでは積極的に行えず,退院後の外来リハを継続する事で,モチベーションの維持に努めた.今回の症例におけるPTの役割は原疾患の病態や病期より予後を考慮した目標設定が重要であると考えた.

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© 2008 東海北陸理学療法学術大会
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