東海北陸理学療法学術大会誌
第24回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P106
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地域在住高齢者における起居動作能力とIADLの関係
*井戸田 学杉山 享史立松 祥片桐 祐佳古川 公宣
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抄録

【はじめに】
起居動作能力の評価は,身体機能を統合的に捉えるために有用であることが報告されている.一方,IADLは認知機能のみならず身体機能にも大きく依存し,地域で自立した生活を送るために必要な活動能力を指すとされている.しかし,この両者の関係についての報告は散見できる程度である.そこで本研究では,起居動作能力がIADLに及ぼす影響について検討し,若干の知見を得たので報告する.
【対象】
認知機能に問題がなく,起居および移動動作が自立した地域在住高齢者24名(男性6名・女性18名,平均年齢82.0±9.0歳)とした.対象者には本研究の主旨を説明し,同意を得て実施した.
【方法】
起居動作能力の指標として,起き上がり,床からの立ち上がり,5回連続椅子からの立ち上がりに要する時間を各2回測定し,その平均値を解析に用いた.IADLの指標としては,老研式活動能力指標(以下,TMIG)を使用した.
分析は,まず各起居動作時間測定の再現性について,級内相関係数ICC(1,2)を求めた.次に,各所要時間とTMIGとの関係についてSpearmanの順位相関係数を用いて検討した.さらに起居動作能力のTMIGへの影響程度を検討するため,TMIGを従属変数,各所要時間と年齢,身長,体重を独立変数としたステップワイズ重回帰分析を行った.有意水準は5%未満とし,統計処理には統計解析ソフトウェアSPSS ver.12を使用した.
【結果】
各所要時間は,起き上がり:6.94±2.61秒,床からの立ち上がり:13.84±8.75秒,5回連続椅子からの立ち上がり:20.96±5.45秒であり,TMIGは8.54±3.81点であった.
ICC(1,2)は,起き上がり:0.93,床からの立ち上がり:0.94,5回連続椅子からの立ち上がり:0.92であった.また,各所要時間とTMIGとの間の相関係数は,起き上がり:-0.61,床からの立ち上がり:-0.70,5回連続椅子からの立ち上がり:-0.78と有意な負の相関が認められた(P<0.001).重回帰式は,TMIG=-0.34×5回連続椅子からの立ち上がり所要時間-0.19×床からの立ち上がり所要時間+18.22(R2=0.66,P<0.001)であった.
【考察】
本研究の結果,各起居動作時間測定のICC(1,2)は0.9以上であり,再現性の高い指標となり得ることが確認された.また各所要時間とTMIGの間に相関が認められ,さらに重回帰分析により,5回連続椅子からの立ち上がり所要時間と床からの立ち上がり所要時間がTMIGに対して有力な因子であることが示された.椅子からの立ち上がり動作および床からの立ち上がり動作は,下肢筋力や歩行速度などと関連が強いことが認められている.また,IADLでは基本的ADLよりも上位の活動を遂行するために高い移動能力が必要とされることから,より高い相関が認められ,関連因子としても抽出されたと考えられる.今回,起居動作能力,とくに5回連続椅子からの立ち上がり所要時間と床からの立ち上がり所要時間を用いて,IADL能力を推察することができる可能性が示唆された.今後は,起居動作能力およびIADLの経時的変化を追った,縦断的な研究が必要であると考える.

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© 2008 東海北陸理学療法学術大会
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