東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P-045
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カフアシストを導入したALS患者の一症例
*三浦 敦史井場木 祐治園田 安希平松 文仁川口 梨沙
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抄録

【はじめに】呼吸苦を頻回に訴える筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)患者は、介助者への負担が増大することから、在宅療養での介助量の軽減がポイントになると考えられる。今回、誤嚥性肺炎後に無気肺を併発したALS患者に対して、カフアシストを導入したところ、呼吸苦の軽減を認め、介助者の負担が一時軽減したので、若干の考察を踏まえて報告する。 【症例】ALS、誤嚥性肺炎と診断された53才の男性である。現病歴は2008年3月、腰に力が入らずに歩きにくくなった。同年12月、ALSと診断された。2010年1月、誤嚥性肺炎のため入院された。翌日に呼吸状態が悪化し、非侵襲性陽圧換気療法(以下、NPPV)を装着された。肺炎は改善し、NPPVは夜間のみの使用となった。同年2月16日、胃ろうを造設され、経口摂取と経管摂取の併用となった。2010年11月、早朝より痰がらみが強く、SpO2:88~90%と低下していた。往診医の勧めにより、救急車にて当院入院となった。主訴は、「呼吸が苦しい、胸を押してもらうと楽になる」と訴えていた。治療への姿勢は、呼吸苦を頻回に訴え、呼気介助の希望が強かった。 【入院時所見】胸部レントゲン上で、右下肺野、左中及び下肺野に淡い肺炎像を認めた。動脈血ガスは、NPPV使用を使用した状態でPaO2:77.9mmHg、PaCO2:43.5mmHgであった。自覚的な呼吸苦は、Borg scaleで17(かなりきつい)であった。 【入院前の生活状況】肺炎発症前においても、呼吸苦を度々訴えていた。しかし、SpO2の低下は認めていなかったようであった。呼吸苦が生じるたびに、呼気介助を行なう必要があった。 【カフアシストの導入】妻に対して、週5回の理学療法中に使用方法の指導を行なった。在宅スタッフに対しては、退院時カンファレンス終了後、本症例を通して実際にカフアシストの使用方法のデモンストレーションを行なった。カフアシストの使用手順として、1.本症例の呼吸と合わせるために、胸部にマスクを当てて予行練習を行なう、2.NPPVのマスクを外し、カフアシストのマスクを当て、5回呼吸行なう、3.カフアシストのマスクを当てながら、呼吸介助を行なう、4.終了後、呼吸介助を実施する。以上の流れを1回に2~3サイクル実施した。 【入院中の経過】肺炎後、左下肺野に無気肺を認めたが、カフアシスト導入後に無気肺は改善した。カフアシスト導入後、本症例の心拍数、呼吸数は軽減し、自覚的な呼吸苦Borg scaleで9(かなり楽)と軽減した。動脈血ガスでは、PaO2:83.2mmHgと改善を認めた。呼吸苦に対する介助量は軽減していた。 【退院後の経過】退院1ヶ月後、カフアシストを積極的に使用しており、自覚的な呼吸苦の訴えは認めなかった。呼吸に対する介助量は、入院前に比べて軽減していた。退院2ヶ月後、痰の粘調度が増加し、吸引回数が増加した。カフアシスト使用後に呼吸苦が増強するとのことで、カフアシストの使用頻度が減少傾向となった。退院3ヶ月後、痰がらみの自覚症状が強くなり、カフアシストの使用頻度が増加した。在宅酸素を導入されたが、呼吸苦の改善は認められず、死亡された。 【妻、在宅スタッフの感想】本人は積極的に使用していたが、カフアシスト使用後の呼吸苦の出現により、一時使用頻度が減少した。在宅スタッフとしては、取り切れない痰の排痰支援の一つの方法として、カフアシストが利用できたことは心強く感じていた。 【考察】痰の喀出により無気肺が改善したことで、自覚的な呼吸苦が軽減した。家族の呼吸に対する介助量は、本症例の呼吸苦が改善したことで、呼気介助を行う頻度が減少した。退院後のカフアシストの使用状況については、カフアシストの使用方法を、本症例を通して妻、在宅スタッフに対して指導が行えたことで、退院後もスムーズに利用する事ができたものと考えられる。 【結語】誤嚥性肺炎と無気肺を併発したALS患者であっても、カフアシストを早期に導入することが、呼吸苦を軽減し、呼吸苦に対する介助量を軽減することにつながることが示唆された。

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© 2011 東海北陸理学療法学術大会
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